2024年11月5日(火)

2024年米大統領選挙への道

2024年11月5日

「強いリーダー」とは?

バイデンは、「民主主義対権威主義」の対立構図を作り、選挙戦を戦ったが、6月27日に開催されたトランプとのテレビ討論会で大失敗し、翌月21日に撤退することになった。バイデン撤退の主たる理由は、テレビ討論会の出来の悪さにあったが、看過してはならない点は、民主主義の危機が約半分の米国民の心を動かさなかったことである。冷戦時代であれば、米国は民主主義の下に団結したはずだ。

 今回の選挙で民主主義的な思考様式を持ったハリスではなく、権威主義的、独裁主義的なトランプが勝利すれば、米国の民主主義は後退すると見てよい。

 米国の司法も弱体化するだろう。トランプは就任後、早速、自分を起訴したジャック・スミス特別検察官を解任すると語った。また、2021年米連邦議会議事堂襲撃事件で収監された一部の支持者に恩赦を出すとも述べた。トランプは司法省に命じて、自分に対する起訴を取り下げると見られている。仮にそうなれば、政治的暴力の容認に直結する。

 さらに、トランプは「内なる敵」という言葉を用い、敵は海外ではなく国内に存在するという見解を示した。これに関して、ハリスは選挙集会でトランプの「敵のリスト」には、反トランプのジャーナリスト、2020年米大統領選挙で不正があったと認めない選挙管理委員会のスタッフおよび反トランプの裁判官が含まれていると言う。

 その上で、ハリスは「強いリーダー」は、「敵のリスト」を作成し、彼らを収監するのではなく、自分は、意見の異なる人々とも同じテーブルについて話し合うと強調した。これが、ハリスが目指す民主主義的な強いリーダーなのだ。

 加えて、ハリスは「真のリーダー」は恐怖と分断によって、人々の気持ちを落ち込ませるのではなく、精神的に高揚させると語気を強めた。つまり、権威主義的、独裁主義的な人物は「強いリーダー」でも「真のリーダー」でもないのだ。

 2024年米大統領選挙は、ジャマイカ系の黒人の父親とインド系の母親の間に生まれた小柄な非白人女性が、権威主義的、独裁主義的でマッチョなイメージを演出する白人男性に挑戦し、米国民に「強いリーダー」と「真のリーダー」の意味を問いかけた選挙であった。その意味で、米大統領選挙史においても、米政治史においても、また、世界における「民主主義対権威主義」のせめぎ合い―民主主義の衰退か、独裁主義の拡大阻止か―の歴史においても、特記される選挙であると断言できる。

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