「忠誠心ファースト」
第2次トランプ政権の人事のキーワードは「忠誠心ファースト」だ。トランプは第1次政権の人事における経験から、他者の推薦や、候補者の能力やスキルではなく、自分に対する忠実度を最優先にして人事を進めている。
トランプが初の女性大統領首席補佐官に起用したスーザン・ワイルズ氏は、今後の人事を占う上で「忠誠心」が重視されることを示唆している。トランプは、第1次政権とは異なり、最初の大統領補佐官となったラインス・プリ―バス元共和党全国委員会委員長のようなワシントンの政界で人間関係に精通した人物を大統領補佐官に選ばなかった。彼のようなワシントニアンは、議会とスムーズな関係を築ける。
だが、トランプは、上下両院で多数派を占め、「トリプルレッド」が現実になっており、そのため議会との関係はさほど問題がないと捉えて、忠誠心ファーストの原則に基づいてワイルズを選択したと考えられる。もちろん、トリプルレッドになれば、大統領自身が多大な影響力を持つこともある。
ワイルズは、南部フロリダ州の政治コンサルタントで、今回の大統領選挙で、同じく政治コンサルタントのクリス・ラチビタ氏と共同で選挙対策本部長を務めた人物だ。
ワイルズは、2018年のフロリダ州知事選で、ロン・ディサンティス下院議員(当時)の陣営に加わったが、ディサンティスと衝突し、選対から追い出された。トランプは、2024年の共和党予備選挙でライバルとなったディサンティスの情報を掴んでいるワイルズを雇い、自身の選対に入れ、ディサンティスに勝利した。2024年米大統領選挙では、ワイルズは共和党が重視して来なかった期日前投票と郵便投票に力を入れた。
ワイルズは、あまり感情を外に出さず、トランプの怒りをそのままの形で受容することができる人物であると言われている。しかも、トランプに対して、批判的な言葉を決して使用しないと言う。トランプにとって、一緒にいて快適で、彼に忠実な人物なのだ。
2人の共通項は「FBIに対する敵意」
トランプは、司法長官に共和党の保守強硬派「フリーダム・コーカス(自由議連)」の中心的人物であり、「ウルトラMAGA:Make America Great Again 米国を再び偉大にする」と呼ばれるマット・ゲーツ下院議員(共和党・南部フロリダ州)を起用した。ゲーツは、自身の政治目標を達成し、権力を増大させていくには、トランプの権力をバックにして、彼の政策をそのまま支持し、遂行していけば良い。
要するに、この2人は、対立する要素が少ない。殊に、ゲーツは、性的不品行や違法薬物使用で米連邦捜査局(FBI)の捜査を受けたが起訴されなかった。ゲーツのFBIに対する敵意も同じで、そこから「FBI潰し」の実現を実行に移す第一歩を踏み出そうとしている。一方、トランプはFBI、特にジャック・スミス特別検察官に相当な敵意を抱いている。
トランプは「完璧な忠誠心」のあるゲーツを選んだ。というのは、前述の通り、第1次トランプ政権で任命した2人の司法長官とは違い、トランプに不利な証言をしたり、行動をとらないからだろう。
米最高裁判所がトランプに免責特権を与えたが、次の4年間で彼は再度、不正を犯す可能性がある。本来であれば、司法省はホワイトハウスから独立した機関であるが、トランプは、ゲーツを通じて司法省を自分の支配下に置くことを目論んでいる。