デイミアン・マクギネスBBCベルリン特派員
ドイツ政府筋によると、オラフ・ショルツ独首相は15日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との電話会談で、ウクライナに対抗するために北朝鮮兵を派遣したことは「深刻なエスカレーション(状況激化)」だと伝えた。両首脳の電話会談は約2年ぶり。
ロシア大統領府(クレムリン)は電話会談について、「ウクライナ情勢に関する詳細かつ率直な意見交換」だったとして、「対話という事実自体が前向きなものだ」と付け加えた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこの会談は「パンドラの箱」に等しく、プーチン氏の孤立を弱めるものだと主張した。
ドイツ政府筋によると、ショルツ首相はロシアによるウクライナ攻撃を非難するとともに、「公正で永続的な和平」の実現に向けてウクライナ政府と交渉するようロシア政府に求めた。
また、「ロシアの侵略に対するウクライナの防衛闘争を、必要な限り支援するというドイツの揺るぎない決意」を強調したという。
ショルツ氏は特に、民間インフラに対するロシアの空爆を非難した。
電話会談は約1時間におよんだ。両首脳は今後も連絡を取り続けることで合意した。
この会談はドイツから提案されたものだったとロシアメディアは報じている。
ドイツ政府は、ウクライナを差し置いてロシア政府と取引を結ぼうとしているといった非難を必死に避けようとするだろう。ナチス・ドイツと旧ソヴィエト連邦が同地域を分断したという、20世紀の東欧の痛ましい記憶を考慮すればなおさらだ。
独首相官邸は文書で、ショルツ氏がプーチン氏との電話会談に先立ち、ゼレンスキー氏とも会談したと明らかにした。プーチン氏との会談後には、その詳細を伝えるために再びゼレンスキー氏と話をする予定だった。
ロシア、「新たな領土の現実」に基づく和平合意と
クレムリンがロシアメディアに宛てた声明によると、プーチン氏はショルツ氏に対し、両国関係は「ドイツ当局が『非友好的な路線』を取った結果、全面的に前例のない悪化」に直面していると伝えた。
クレムリンはプーチン氏が、いかなる和平合意も「新たな領土の現実」に基づいたものでなければ実現しないとショルツ氏に伝えたと説明した。「新たな領土の現実」とは、2022年の侵攻後にロシアがウクライナ領を占領したことを意味する。
プーチン氏はまた、和平合意は「紛争の根本的原因」を取り除くことによってのみ実現し得ると述べた。
クレムリンは北大西洋条約機構(NATO)の東方「拡大」を非難することで、ウクライナ侵攻を正当化してきた。
電話会談の中で、プーチン氏は「現在の危機は、ウクライナ領内にロシアに対抗する橋頭堡(きょうとうほ、橋のたもとに設ける陣地)を築くことを目的とした、NATOの長年にわたる攻撃的政策がもたらした、直接的な結果だ」と述べたと報じられている。
ショルツ氏は10日、独テレビ局のインタビューで、和平交渉を推進するためにプーチン氏と協議するつもりだと述べていた。ショルツ氏は自分一人ではなく、複数の人たちと相談しながら行動していると説明した。
ショルツ氏をめぐっては、来週にブラジル・リオデジャネイロで開催される20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、中国の習近平国家主席ともウクライナ戦争について協議するつもりではないかとの憶測が浮上している。中国はロシアを支持しているものの、全面的には支持していない。
ショルツ氏とプーチン氏の最後の電話会談は、2022年12月2日だった。最後に直接顔を合わせたのは、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始する1週間前だった。
ショルツ氏は当時、ロシアはウクライナに侵攻するつもりはないとの約束をプーチン氏から取り付けてベルリンに戻った。その1週間後のウクライナ攻撃は、ドイツとロシアの信頼関係を裏切るものだった。
独政府は数十年かけて、両国間に貿易やエネルギーをめぐる結びつきを確立することでロシア政府との和平を確保しようとしてきた。そうした強い望みは、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始したことで一夜にして砕け散った。
今やドイツはアメリカに次いで2番目の、対ウクライナ軍事・財政支援国だ。有権者の大半だけでなく政界の主流派も、ウクライナ支援を支持している。
しかし、来年2月に総選挙を控える中、ウクライナ戦争を終結させるための和平交渉を求める圧力がドイツ国内で高まっている。
極右野党「ドイツのための選択肢(AfD)」と過激な左派ポピュリスト政党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)」は、政府は和平交渉を実現するのに十分な取り組みをしていないと非難している。両党は総選挙で合わせて25~30%の票を獲得する可能性がある。
ショルツ氏は先週、自由民主党(FDP)のクリスティアン・リントナー財務相を解任した。ショルツ氏率いる社会民主党(SPD)は2021年以来、リントナー氏が党首を務める自由民主党(FDP)と緑の党と共に連立政権を形成してきたが、今回の動きにより連立政権は崩壊。来年の総選挙まで少数与党政権となる。
世論調査では、ショルツ氏とSPDの支持率が落ち込んでいることが示されている。
ドイツはウクライナ戦争によって、政治的にも経済的にも大打撃を受けている。
そのため、ショルツ氏が戦争終結に取り組む兆しが見えれば、総選挙で同氏の運命が好転するかもしれない。
(英語記事 North Korean troops in Ukraine ‘grave escalation’, Scholz tells Putin)