2024年6月17日(月)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2024年5月2日

プラセボ対照試験の欠陥

 機能性表示食品の根拠論文の質が低いことは残念であり改善が必要である。しかしこの問題の背景に隠された真の理由があることを認識しない限り、解決を望むことができない。真の理由とは、臨床試験の定番であるプラセボ対照試験は、その原理的な欠陥から、食品機能を測定することが困難であるという事実である(「ブームに沸く「健康食品」は本当に効果があるのか」)。

 医薬品の効果は薬理作用と心因作用から成り立つ。健康保険は薬理作用に薬価を支払うが、心因作用は「気のせい」であり「治療効果とは言えない」ので支払わない。半世紀前にそのような概念が作られた結果、2つの作用を分離する試験が必要になった。

 こうして作られたプラセボ対照試験は、プラセボ(偽薬)を投与して測定した心因作用を薬物の効果から差し引き、残りを薬理作用と考える方法だ。その原理は薬理作用と心因作用の合計が薬物の効果とする相加性である。

 こうしてプラセボ対照試験は薬物の臨床試験の定番になり多くの試験が行われた。するとこの試験法の欠陥が見つかった。

 例えば軽度のうつに対する抗うつ剤の作用 や慢性の膝の痛みに対する鎮痛剤の作用 は、薬物の効果から心因作用を引くと残りがなくなってしまう。ということは薬理作用がないことになるのだ。その原因は薬理作用と心因作用が直列ではなく並列に並んでいるためと考えられている。

 試験法の欠陥が明らかになったが、心因作用に比べて薬理作用が大きい医薬品では疑似的に相加性が成立し、薬理作用を測定することができるのでその使用は続いている。ところが機能性表示食品の多くは薬理作用と心因作用の差が小さいと考えられ、試験法の欠陥が強く表れるため有意差が出にくい。

 機能性表示食品でこの試験法が使えない理由がもう一つある。医薬品の場合は臨床試験の被験者は病者であり、血圧、血糖値などの測定項目は異常値である。病者に医薬品を投与すればこれらは正常値に戻り、その変化量は大きいため容易に測定できる。

 他方、機能性表示食品の被験者は健常者あるいは境界領域者であり測定項目は正常値に近い。そこに機能性表示食品を投与して正常値に戻しても測定される変化量は小さく、有意差を得ることは簡単ではない。そこから心因作用を差し引くことで検出される薬理作用はさらに小さくなる。

 このような理由でプラセボ対照試験を使って食品機能を測定することは困難なのだが、にもかかわらずプラセボ対照試験を実質的に義務化されている。すると有意差をなんとしても得ようとして各種のトリックが使われる。これが機能性表示食品の根拠論文で多くの問題が起こっている真の理由である。

問題を解決する方法

 23年に消費者庁は「届出表示の裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠いている」として措置命令を出した。これは届出論文の質に対する社会の批判への答えの一つと考えられる。

 消費者庁はこの問題をもう一つの方法で解決しようとしているように見える。それは統計の不適切な使用を黙認することである。

 具体的には、プラセボ群と試験群の群間差は、本来であれば測定後値を比較することで行う。ところが消費者庁の届出資料の書式では、両群の前後差の比較で群間差を得るという禁じ手を許容している。そのような手法を使わなければ有意差を得ることが困難な場合があるためと推測される。もちろんこの2つの対策は矛盾するものであり、これらによる問題の根本的な解決は不可能である。


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