2022年10月6日(木)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2022年9月17日

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唐木英明 (からき・ひであき)

東京大学名誉教授

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部教授、日本学術会議副会長、倉敷芸術科学大学学長などを経て現職。著書に『不安の構造 リスクを管理する方法』(エネルギーフォーラム新書)。

 健康食品には大きく分けて3つの種類がある。国がその効果を審査して許可する「特定保健用食品」、通称トクホ、企業が効果を示す論文を添えて届け出るだけで効能を表示できる「機能性表示食品」、そして企業が自分の判断で販売している「いわゆる健康食品」である。効果の根拠が明確なのはトクホ、次に機能性表示食品であり、「いわゆる健康食品」は根拠が提示されていないものが大部分である。

(d3sign/gettyimages)

 このなかで急速に製品が増えているのが機能性表示食品である。その理由は、トクホはヒト臨床試験による国の厳しい審査を受ける必要があるのだが、機能性表示食品は効果があるというヒト臨床試験の論文1報を提示すればよく、国の審査を受ける必要はないという簡便さのためである。

 ところが8月にネットメディア『日経クロステック』が、機能性表示食品の根拠論文の科学的質が低いことを批判する一連の記事を掲載した 。一般の消費者はあまり見ることがない技術系メディアなので大きな話題にはなっていないが、この批判は的を射たものであり、機能性表示食品の将来に暗い影を落としかねない。

効果判定を難しくする「心因作用」

 指摘された問題を考えるために、医薬品の効果判定について説明しよう。60年前、筆者が薬理学の講義を受けたときには、「鎮痛剤は体に作用して薬理作用を発揮する」と習った。ところがその後、有効成分が入っていない錠剤を「鎮痛剤です」と言って飲ませると、実際に鎮痛効果が出る「心因作用」があることが分かった。「痛みが治まるだろう」という期待が実際に鎮痛効果を表すのであり、その脳内の仕組みも明らかになってきた。

 困ったのは医薬品の承認を行う国の機関である。医薬品の承認とは物質の承認であり、心因作用を承認するわけにはいかない。だから臨床試験で有効という結果が出ても、その原因が物質自身の作用なのか、心因作用なのか区別しなくてはならなくなったのだ。

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