2024年12月7日(土)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年11月28日

 イーロン・マスク氏と言えば、スペースX社とテスラ社を率いることで、現代の世界を代表する経営者であり、同時に技術革新のフロントランナーでもある。そして、何よりも世界でトップクラスの大富豪であることは疑いようもない。そのマスク氏は、今回の大統領選でトランプ氏を強く支援し、200ミリオンドル(約310億円)と言われる金銭面での援助だけでなく、自らが精力的に選挙運動にも関与していた。

マスク氏(右)はトランプ氏をスペースXの発射場も案内している(Brandon Bell /gettyimages)

 選挙戦に勝利したトランプ氏は、マスク氏を「政府効率化省」のトップに指名し、新政権での要職に就くことも決まった。そのマスク氏だが、トランプ氏との関係は必ずしも一貫していない。

 例えば、2015年から16年にかけて、ドナルド・トランプ氏が大統領を目指した際に、マスク氏は、一時は支持を検討したことがある。だが、当時のトランプ氏の選挙戦、そして第一次政権の性格は、スチーブン・バノン氏らが主導した右派のポピュリズムに、伝統的な共和党政治が接合された不安定なものであった。

 当時のマスク氏はこれを嫌っており、特にトランプ政権が環境対策に否定的であり、化石燃料業界に近いことから政権とは距離を置いていた。これに対して、バノン氏ら側近は、マスク氏率いるテスラ社やスペースX社を敵視していたこともある。

 その後、マスク氏は、氏独特の価値観から「言論の自由を回復」させるなどと称して旧ツイッターを買収。これを「X」に看板を掛け替える中で、トランプ氏のような保守の立場からの「お行儀の悪い」言論活動への取り締まりを解除するなど、当時は在野であったトランプ氏に再び接近していた。

トランプ氏のメリット

 やがて、今回の選挙戦においては、有力なドナー(政治資金の提供者)だけでなく、後半戦においてはトランプ氏の右腕のように、積極的にツアーに同行。支持者を集めたラリー形式の政治集会では、必ず登場するようになった。

 選挙戦の途中から、トランプ氏はマスク氏の政権入りを明言。マスク氏もその要請を受ける発言をしており、それが今回の人事につながっている。

 トランプ氏の側からすれば、マスク氏が政権に参画することのメリットは多い。何よりも巨額の資金を提供してくれるし、Xにおける表現規制を撤廃することで、トランプ氏の広報活動を側面援護してくれている。

 一番のメリットは、若者に人気のあるマスク氏の持っている先端技術のイメージ、改革者のイメージを取り込むことができることで、今回の選挙戦で多数の若者票がトランプ氏に流れているが、その背景にはマスク氏の支持が影響したことは疑い得ない。


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