フードデリバリー、配車アプリのバイクタクシーが行き交うベトナムの路地
11月8日。ハノイ空港から路線バスでハノイ旧市街に向かった。工事のため路線バスは迂回路を通ったため降りたバス停からホステルまで、2キロ近くも歩かされた。11年前のベトナム訪問時と比較してハノイには新しい高層ビルが増えたが、それ以上にフードデリバリーや配車アプリのバイクタクシーが無数に走り回っている光景にいささか驚いた。
11年前にはフードデリバリーという業態自体が存在せず、バイクタクシーは大きな交差点近くや観光スポットで客引していたことを思い出す。ところが過去10年の間にフードデリバリー業界が誕生して、現在ではBeFOOD、GrabFOOD、ShopeeFoodなどのロゴを付けた各社のバイクが競うように町中を走り回っているのだ。
同様に配車アプリも急速に普及している。バイクタクシーでは、バリ島などアジア各地で配車サービスを展開しているGRABのロゴが目立つがBE、Xanhなど地場の配車サービスのバイクタクシーも走っている。
ハノイ以外の地方都市でも、フードデリバリーと配車アプリは盛況であり、筆者の住む東京近郊の町よりも、ベトナムの田舎町の方が頻繁にロゴを付けたバイクが走り回っている。ドイモイがもたらした経済自由化により、ベトナム社会が急速に変容していることを実感した。
社会主義国家としての政治体制を維持したまま市場経済導入により、経済を活性化するドイモイ(経済刷新)政策は1986年に採用された。1990年には国民一人当たりGDPは250ドル程度だったが、2023年には4300ドルとなった。現在ベトナムの経済成長はアセアン諸国のなかで比較しても顕著である。
ハノイのホステルの共同オーナーのアラサー独身女子
11月9日。ハノイの観光名所の旧市街に隣接するホステルに逗留。ホステルの共同オーナーの女性は昼間4時間くらいレセプションで接客したり、スタッフに指示を与えたりしていた。ベトナム戦争を知らない彼女にとり、ドイモイ(経済政策刷新)導入以前の社会主義計画経済は遠い昔話の世界のようだった。
ドイモイ開始から40年経過した現代ベトナムでは、ホステル経営のような個人営業ビジネスには規制や制限がないらしい。ホステルは築後50年以上の古い5階建てのビルを賃借して、運営している。元々一階がレストランで二階から上はアパートだった。改装してドミトリー(相部屋)8室、個室12室の中規模ホステルとなった。ハノイの観光名所の旧市街に近く交通の便が良いので客室稼働率が高い。11月のハノイはオフシーズンであるがほぼ満室であり、改装費用などの初期投資は2年足らずで回収したという。
彼女は暇があると熱心に賃貸不動産物件をPCで検索していた。2目のホステル開業を目指していたのだ。銀行から改装費用の融資を受けることは目途がついているという。5年以内にハノイ市内に5~6軒のホステルを運営するという経営目標を語ってくれた。
共同経営者の男性は、たまにホステルに顔を出すことがあった。彼は旅行代理店の経営が本業という女性とほぼ同年齢の青年である。筆者は2人の関係について女性に尋ねたところ「共同経営者の男性とはプライベートな関係は一切なく、純粋なビジネスパートナー」と断言した。筆者には彼女が“ドイモイの申し子”のように思えた。
式服レンタル、ベビー服、ペットショップ、熱帯魚など専門店が並ぶ地方都市
11月20日。カオバンはベトナム東北部にある地方都市で、山岳地帯の観光拠点となっている。繁華街から離れた住宅街の通りを散歩していた時に、どことなく違和感を抱いた。11年前のベトナムの地方都市では、ほとんど見かけなかったようなお洒落な専門店が静かな通りに軒を連ねているのだ。
結婚式の衣装をレンタルする店を覗くと、ウェディングドレスとベトナム伝統衣装の豪華なアオザイが陳列されていた。結婚披露宴ではウェディングドレスから途中でアオザイに着替えるらしい。奥の男性コーナーではタキシードとやはり男性用伝統衣装が並んでいた。
面白かったのは、子ども専用式服レンタルのショップである。ベトナムの色鮮やかな男児用・女児用の伝統衣装が所狭しとばかりに並んでいた。日本の七五三のようなお祝いがあるのだろうか。記念写真のためのスタジオも併設されていた。
ベビー服専門店、ペットショップ、熱帯魚専門店も品揃えが豊富で、日本の同業の店と比較しても遜色ない水準であった。
経済成長により生活水準が向上した結果として、消費者が多様な商品・サービスを求めるようになり、供給サイドもそれに応えるべく進化している。ベトナムは過去11年間で急速に西側先進国の生活水準・生活様式にキャッチアップしてきているのだ。
タム・コック名物足漕ぎボートの水郷と奇岩を巡るツアーは地域の中核産業
11月23日。“陸のハロン湾”と称されるタム・コックは、石灰岩の奇岩が連なる水郷地帯である。タム・コックのバス停近くに観光ボート乗り場がある。観光バスから下車した観光客がボート乗り場に列を作って並んでいる。
地元のオジサンやオバサンが足漕ぎボートで一艘あたり数人の観光客を乗せて、水郷奇岩ツアーに案内する。200艘くらいのボートが稼働しているので、数百人の地元民の雇用を創出し現金収入をもたらしているのだ。
観光ボート乗り場には切符売り場があり、統一料金となっている。料金交渉不要なので外人観光客も安心してツアーを楽しめる。タム・コックの観光ボートは、地元の組合により組織化されており、地元民のツアーガイドは1日に乗せた観光客数に応じて組合から賃金を受け取る。
組合は余剰収入で水郷の観光ルートの橋や散歩道や案内板を整備して、水路の清掃を実施している。水路の途中で15人の女性が伝統衣装を着て太鼓演奏していた。これも組合が組織したものらしい。
タム・コックでは、地元の人々が協力してより魅力的な観光地とするべく、創意工夫して高収益を上げるように努力している。まさにドイモイ精神の発露である。
