2025年1月10日(金)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2025年1月10日

健康食品制度の欠陥

 国が機能性表示食品とトクホの製造管理を厳格化したというニュースを聞いた消費者から、「健康食品はこの2種類なのか」と聞かれた。そう思う人がいてもおかしくないのだが、実は健康食品は4種類もある。

 そもそも健康食品の名称は混乱している。図に示すように、厚労省は一般に「健康食品」と呼ばれるものを『いわゆる「健康食品」』と呼び、「いわゆる健康食品」と呼ばれるものを『その他のいわゆる「健康食品」』と呼んでいる。厚労省の用語は分かりにくいので、本稿では一般の呼び方を使うことにする。

出所:いわゆる「健康食品」のホームページ

 健康食品は保健機能食品と「いわゆる健康食品」に分けられ、保健機能食品の中にトクホ、栄養機能食品、そして機能性表示食品がある。大きな問題は、このような複雑な制度と分かりにくい名称になった経緯とこれを改善できない理由だ。

 最初に押えておくべき点は、日本の法律では私たちが口にするものを「食品」と「医薬品」に二分する「食薬区分」が行われていることだ。「健康食品」という法律上の用語がないことが、厚労省の『いわゆる「健康食品」』という呼び方の理由だ。

 朝鮮人参やニンニクなどのように、健康維持の作用があると信じられた食品は昔も今も存在する。これが健康食品のルーツであり、「いわゆる健康食品」である。その後、1991年にはトクホ制度が誕生した。これは、国の審査により特定の健康効果が認められた食品に対して、その効果を表示することを許可するものである。

 続いて2001年に栄養機能食品制度が発足した。これはビタミン、ミネラルなどの補給のための食品で、国の規格基準に適合していれば国の審査は必要がなく、企業の責任で効果を表示できる。そして15年に誕生した機能性表示食品は、安全性と機能性の根拠となる論文を届け出るだけで、効果を表示できる。これに対して「いわゆる健康食品」は効果を表示することが禁止されている。

 「いわゆる健康食品」しかなかった健康食品の世界に保健機能食品が次々と誕生したのだが、これらの制度の整理統合は全く行われなかった。その結果、薬局やスーパーには規格基準が異なる4種類の健康食品が並び、その隣には胃腸薬などの一般用医薬品(OTC)が並ぶ。そして消費者にはほとんど見分けがつかない。

 アンケート調査では、健康食品を使いたいと思う人は88%、使ったことがある人は77%、日常的に使っている人は52%である。別の調査では59%が満足している。

 多くの人が愛用し、その効果に満足して、セルフメディケーションのツールとしている実情が浮かび上がる。ところがこれらのアンケート調査では4種類の健康食品を区別していない。消費者がこの分類をほとんど知らないためである。他方、米国や欧州連合(EU)での名称はサプリメント一種類である。

 第3の課題は、消費者に混乱をもたらすだけで商品の選択の役に立たない分類を、規格基準に立ち戻った検討を行い、整理統合することである。

安全性の向上

 紅麹サプリ事件は健康食品の買い控えに発展し、売上は1割減少した。それは健康食品に対する信頼が大きく損なわれたためである。

 信頼回復の最も重要な方法は、これ以上「悪いうわさ」が出ないようにすることだが、その第一は健康被害を起こさないことである。次は経済被害の防止であり、「お試しのつもりが定期購入だった」など契約条件が明確に示されていない例、解約手続きが困難などの問題である。また誤解を招く広告も後を絶たない。

 もちろん行政は解決の努力をしているが、問題は減る気配を見せない。それではどうしたらいいのだろうか。

 実は問題を起こした製品の大部分が「いわゆる健康食品」であり、保健機能食品は問題が少ない。もちろん「いわゆる健康食品」がすべて悪いのではなく、一部の製品が消費者の不信の原因になっている。その背景には、「いわゆる健康食品」が法律上は単なる食品であるため、一般の食品より厳しい規制が困難な事情がある。

 健康被害の原因はホルモン作用を持つプエラリア・ミリフィカのように機能性関与成分自体の問題もあるが、痩身剤や勃起促進剤などの医薬品等の混入、そして紅麹サプリ事件のような製造工程管理の失敗などもある。そして最大の原因は、サプリ形状にある。

 抽出した有効成分を濃縮してサプリ形状に加工すると、食品ではありえない高濃度を継続して摂取できるようになり、過剰摂取による健康被害が起こるのだ。

 だからサプリ形状の製品の安全を守るためには厳格な規制が必要である。例えばサプリ形状の製品はすべて保健機能食品と見なして、保健機能食品ではないサプリ形状食品を禁止する「形状規制」が考えられる。


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