2024年12月27日(金)

Wedge REPORT

2024年12月27日

 新しいがんの治療方法として注目されている光免疫療法の第1回研究会が12月22日に都内のホテルで開催され、200人を超す医師や研究者が参加、この治療法についての最新の研究事例が報告された。現在は頭頚部がんのみが、2021年から光免疫治療の保険適用になっているが、研究会では、肝臓、膵臓、肺、胆のうなど他のがんにも適用できないかの可能性について報告があり、がん治療の適用範囲の拡大への期待が高まっている。

イメージ画像(KATERYNA KON/SCIENCE PHOTO LIBRARY/gettyimages)

700を超える治療例

 この研究会の発起人で、この治療法を開発、実用化した小林久隆米国立衛生研究所(NIH)分子イメージング部門主任研究員・関西医科大学附属光免疫医学研究所長は「この治療法はまだ道半ばで、これから多くの医療機関の協力を得ながら適用範囲を拡大していきたい」と述べた。

 小林主任研究員によると、2024年12月現在、日本では頭頚部がんの患者で国内約350例、700件を超える治療が行われてきた。現在は日本全国180の医療機関で光免疫療法の治療が受けられる。その中で興味深いのは上咽頭がんでの著明な治療成績が見られ、集められた治療データ19例中15例で完治、残り2例も改善している。この治療によって患者が重篤化したり、死亡した事例は出ていない。

増え続けるがん患者

 がん治療では、オプチーボなど肺がんに効果があるとされている新薬も発売されて、新しい免疫療法も進んで来てはいる。しかし、がん患者数と死亡者数は高齢化もあって依然として増え続けており、日本人の2人に1人ががんにかかっているのが現状だ。

 23年の厚生労働省の統計を見ると、がんによる死亡者数は38万2504人で、男性が22万1360人、女性が16万22万1144人。1981年から死亡原因はがんが第1位を続けており、男性は4人に1人、女性は6人に1人ががんで亡くなっている。このため、がん克服は医療分野での国民的な最大課題になっている。

 部位別にみると、男性は肺がん、大腸がん、胃がん、すい臓がん、肝臓がんの順に多い。女性は大腸がん、肺がん、すい臓がん、乳がん、胃がんの順になっている。

 がんの治療は、これまで①外科手術、②抗がん剤などのよる化学療法、③放射線治療が主に行われてきた。最近はこれに免疫療法が加わって来てはいるが、がんの死亡者数を減らすことはできていない。

 小林主任研究員の開発した光免疫療法は、がん細胞だけに特異的に結合してくれる抗体(たんぱく質)を使用し、この抗体に近赤外線を当てることによって化学反応を起こす「IR700」を搭載した静脈注射をすると、がん細胞を破壊してくれる仕掛けになっている。抗がん剤を使用した時に見られるような強い副作用もなく、再発リスクの少ないのが特徴だ。

深い場所への照射

 光免疫療法は臓器の表面や表面近くにあるがん細胞には照射する光が届くため効果が大きいとされているが、深いところにある患部には正確に光が届かないという課題があった。この日の研究会では、こうしたマイナス面を克服するための報告がいくつかあった。具体的にはがん細胞のある奥深い場所に針を刺して照射する新たな照射方法、照射範囲の拡大や角度を付けて照射できるデバイス開発の必要性などが指摘された。また、普及している内視鏡を使って胃腸など消化管のがんの患部への照射の有効性についても報告があった。


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