サッカーというゲームは時に、残酷なまでに資金力や人口規模を反映する。それでも時折、そうした巨大なものをひっくり返すような物語を生み出す。サッカー最大の祭典であるW杯も、本大会の出場国が従来の32から48に拡大したことで、世界の舞台になかなか縁のなかった小国やサッカーの後進国にも、扉が開かれやすくなった。
キュラソーが、まさに象徴的な存在だ。人口約15万6000人、国土は444平方キロメートル、南米のベネズエラにほど近い、世界地図ではほとんど点のようにしか見えない南カリブの島国が、ついに初めてW杯本大会への切符を手にしたのだ。
この事実は単なる数字の逆転劇ではない。旧オランダ領の歴史を持つがゆえの欧州とのつながり、移民の流れ。世界文化遺産を多く残す観光資源としての価値、そして情報革命の恩恵を受ける形でのサッカー面の強化など、代表チームの成長の理由は複合的だ。
欧州で活躍する移民選手が国を背負う
出場国枠の拡大に加えて、キュラソーの追い風となったのが、2026年の本大会がアメリカ、メキシコ、カナダの3カ国による共催となったことだ。決勝が行われるニュージャージーをはじめ、ベニューと呼ばれる会場の大半はアメリカ国内だが、メキシコとカナダにも開催国としての出場権が与えられている。強豪3カ国が予選免除となった北中米カリブ海では、残る国々で3つの自動出場枠と2つの大陸間プレーオフ枠を争う構図となった。
この特殊なレギュレーションにより「ひょっとしたら、自分たちもW杯に行けるかもしれない」と真剣に思った北中米カリブ海の国は少なくなかったはず。だが、キュラソーは母国サッカーの底上げに加えて、積極的な移民ネットワークを活用して、代表チームを強化した。欧州などをベースに活動する移民選手にとっても、祖国を背負ってW杯の舞台に立つことは、この上ない名誉であり、モチベーションだろう。
エースとして前線に君臨する193cmのFWユルゲン・ロカディアはオランダの元U-21代表だが、ルーツのあるキュラソーからのラブコールに応えて、23年に代表入りを決断した。プレミアリーグのブライトンなどでも活躍した経歴を持つロカディアは大一番のジャマイカ戦で、勝利を決定づける2点目のアシストを記録するなど、チャンスメイクからフィニッシュまで圧倒的な存在感を示している。
もう一人、この快挙を語るうえで欠かせないのがキャプテン、レアンドロ・バクーナだ。中盤で試合のリズムを作り、全体を統率する34歳の司令塔は、オランダのフローニンゲン生まれ。イングランドの名門アストン・ヴィラなど欧州の舞台で経験を積み、現在はトルコ2部のバンディルマスポルでプレーする。
