かつてはこれを厚生省薬務局長通知「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(通称46通知)により実施していた。しかしこれが01年に解禁されたため、サプリ形状の「いわゆる健康食品」問題が急増した。形状規制を再度実施することも一つの方法だが、解禁の原因になった日米貿易摩擦問題が再燃しかねない。
次の手段は、すべてのサプリ形状食品の製造工程にGMPを義務化することである。トクホと機能性表示食品については義務化されているので、新たな対象は「いわゆる健康食品」になる。
この方法は改正食品衛生法に取り入れられ、「指定成分等」、すなわちプエラリア・ミリフィカなどリスクがある4種類の成分を含む食品の製造にはGMPが義務化されている。これをサプリ形状の食品全体に拡大できれば「いわゆる健康食品」の安全性は大きく改善され、健康食品に対する消費者の信頼回復につながるだろう。これが第4の課題である。
「いわゆる健康食品」対策の遅れ
紅麹サプリ事件は製造工程管理の失敗という、どこでも起こり得る一般的な問題であり、だからその対策はすべての健康食品を対象にすべきである。ところがこれが機能性食品に特有の問題であるような大きな誤解が広がった。
「この制度はアベノミクスの経済活性化のために急遽作られたものであり、国の審査が行われない単なる届出であるため問題が起こった」、「国が審査するトクホだけ残して、審査しない機能性表示食品は廃止すべき」などの誤解だ。
その結果、機能性表示食品制度の厳格化が行われ、対策はトクホにも広げられた。しかし、最も問題が多い「いわゆる健康食品」は放置された。
現実に沿わない対策が実施された背景を推測すると、紅麹サプリ事件がこれだけ大きな問題になった以上、政府は迅速な対策を実施したという実績を作って、国民の理解を得る必要があると感じた。紅麹サプリは機能性表示食品なので、これを厳しく規制することが最も分かりやすい対策だ。そのように考えたのだろう。そして、この対策を指示した政治家諸氏は、最も対策を必要としているのは「いわゆる健康食品」であることもご存知なかったのだろう。
効果の判定方法
多少専門的な話になるが、健康食品制度のもう一つの大きな欠陥は、その効果判定にプラセボ対照試験を義務化したことである。この試験は被験者に標準治療薬と有効成分を含まないプラセボをランダムに割り当てて効果を検証する。慢性の疼痛、不眠、うつなど多くの軽い症状ではプラセボとの有意差を得ることが困難なことが薬理学的に証明されている。これを受けて、医薬品の臨床試験ではプラセボ対照を義務化しないことが厚労省課長通知で示されている。
ところがなぜかトクホと機能性表示食品ではこれを義務化してしまった。その結果、臨床試験で有効性を示すことが難しく、統計学の不適切な使用でやっと効果を示すなどの深刻な問題が発生している。
このことが原因で「健康食品は効果がない」という誤解までもが広まっている。例えば厚生労働省のパンフレット「健康食品の正しい利用法」は、「飛びつく前に、よく考えよう!」と題して、「健康食品が原因で体調を崩す事例なども出てきており、注意が必要」などとそのリスクを詳細に記載する一方で、効果や使用法は一切記載していない。
消費者は、健康食品がどの程度有効なのか、どんな時に、どのような飲み方をすべきかなどを知りたがっている。ところが厚労省パンフレットは全く役に立たない。消費者の側に立ってこの問題の解決を図るのがメディアと消費者団体と業界団体の役割だが、三者共にこのような深刻な事情を知らず、厚労省の見解に従って健康食品のリスクに警鐘を鳴らすばかりである。
問題の解決は臨床試験の専門家である薬理学者の出番だが、実は薬理学者である筆者自身がかつては厚労省と同じ「健康食品不要論」だった。筆者が知る限り、多くの薬理学者も同じで、「効果があれば医薬品になるはずであり、効果がないから健康食品なのだ。効果がないものは不要だ」と思っている。
その後、プラセボ対照試験の欠点に関する論文を勉強し、厚労省課長通知を読んで、誤解に基づく先入観にやっと気付いた。いまさら偉そうなことは言えないのだが、己の不明を恥じるとともに、第5の課題として、行政には一日も早く試験法の改善とパンフレットの改定をお願いしたい。