「日本人だけが知らない『国産こそ危ない』食品の罠」。こんな見出しの記事(「女性セブン」5月23日号)が目に止まった。この種の記事は他の「週刊女性」「週刊新潮」などにもたびたび登場する。
科学的な根拠に乏しい内容でも、記事にする言論の自由はあるだろうから、この種のニュースに対しては、やはり基本的な知識で自衛するしかない。『フェイクを見抜く』(ウェッジ)を武器に基本知識をいま一度、身に着けておきたい。
農薬にかかわる記事で不安を呼び起こす文句はいつもほぼ同じだ。「日本の農薬使用量は世界的に見てトップクラスだ。その結果、日本ではがんの死亡者が先進国で圧倒的に多く、自閉症など発達障害の割合が高い」「日本の食品の残留農薬基準値は欧州連合(EU)に比べて緩く、安全性が担保されていない」といった言い方だ。要するに日本は世界の流れから立ち遅れているという論法である。
「女性セブン」の記事に対するファクトチェックは、「クロップライフジャパン」(旧農薬工業会)のホームページに掲載された見解(6月14日付)を是非読んでほしいが、ここでは、農薬と自閉症、がんの関係に関する基本的な背景を知っておきたい。
文科省の調査は医学的な診断ではない
農薬とのかかわりでよく週刊誌の話題をさらうのが農薬と自閉症(正式には自閉スペクトラム症だが、ここでは自閉症と記す)の関係だ。上記「女性セブン」にも「単位面積あたりの農薬使用量は中国、韓国、日本が世界で最も多く、米国や西欧は日本の半分以下だ。その結果、自閉症の割合は中国を除けば、日本と韓国がずば抜けて高い」という内容が載っていた。
日本で自閉症をはじめ発達障害の子供たち(小中高生)が急増している例として、文部科学省が公表している「通級による指導実施状況調査」がよく挙げられる。確かにこの調査では発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害、情緒障害、言語障害など)の数は1998年の約2万4300人から、2019年の約13万4000人へと約20年間で5倍以上増えている。しかし、多くの児童精神科医師が指摘しているように、この数字は学校の教師が子供たちの行動を観察して報告したもので、医学的な診断とは全く異なる。
発達障害の診断は、「こだわりが強い」「グループで遊ばず、1人で遊ぶことが多い」など多様な症状や行動を観察して判断するため、医師によっても診断結果が異なることがある。高血圧のような明確な数字で診断できるわけではない。
しかも、発達障害に関しては、その言葉の認知度が上がったため、子供たちの言動にちょっとした異常があっても、学校の教師は「この子は発達障害だ」とみなしてしまうケースは実際に多いという現状がある。