2024年7月2日(火)

食の「危険」情報の真実

2024年6月27日

がん死亡は増えていない

 最後に、がんに関する統計的な実像に触れたい。上記「女性セブン」の記事に「日本のがん死亡は先進国で圧倒的に多い。その要因は農薬が体内に蓄積して、遺伝子変異を起こした結果の可能性が大いにある」という内容が載っていた。

 国立がん研究センターの統計データを見れば、すぐに分かるが、男性、女性とも日本のがん全体の死亡率(75歳未満の年齢調整死亡率)が米国、英国、カナダなどより高いという事実はない(「がん年齢調整死亡率の国際比較」20年度の厚生労働科学研究費補助金がん対策推進総合研究事業)。

 そもそもがんは高齢者に多いため、長生きする人が多い国ほど、がんの死亡数は増える。日本は「世界一のがん大国」と言われるが、それは長寿命の証である。がんの死亡率を正確に知るには人口の高齢化の影響を除いた年齢調整死亡率を見る必要がある。

 国立がん研究センターがん情報サービス(22年9月27日更新)によると、人口の高齢化の影響を除いた年齢調整率で見ると、がんの罹患は10年前後まで増加し、その後は横ばい、死亡率は1990年代半ばをピークに減少している。農薬によってがんの死亡が増えているという言説がそもそも成り立たないことが分かるだろう。ちなみにがんの死亡率は米国、カナダ、英国など先進国でも減少傾向が続いている。

 農薬と自閉症、がんとの関連を論じた記事を見たときは、農薬よりも自閉症やがんに関する周辺情報を知っておけば、冷静に接することができる。週刊誌の記事は常に往々にして不安や脅しで読者の目を引こうとしていることを忘れてはいけない。

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