2025年1月14日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年1月14日

 中国が支配しているチベットのシガツェ市ティンリ県で1月7日朝に発生したマグニチュード6.8の地震は、石積みの伝統家屋が多い村落を直撃し、少なくとも100数十名の犠牲が生じた。地震国の一国民として心よりの哀悼を申し上げたい。

チベットで発生した地震に対し、ダライ・ラマ14世が哀悼の意を表明。中国政府が「懸念」を示した(2014年9月、Jules2013/gettyimages)

 そして日本政府は石破茂首相の名でいち早く、中国の習近平国家主席・李強首相に対し慰問のメッセージを伝達し(日本外務省HP)、発生から一日後・8日の中国外交部定例記者会見でもその旨が紹介された(計22ヵ国の首脳が表明)。日本と中国の間には様々な懸案があるものの、このような事態においては互いに人命を思いやることが当然であろう。またチベットの地をめぐっては長年にわたり、中国による支配の妥当性をめぐる様々な議論があるが、少なくとも中国が責任を以て救援と善後処理に当たるのであれば、その事実を尊重するのが良いと考える。

 しかし災害は同時に、既存の様々な問題を改めて浮き彫りにし、被災した人々の当惑を広げることもある。筆者の見るところ、残念ながら今般の地震も、チベットの人々に新たな苦しみをもたらす可能性が高い。

記者会見問答をも消す中国の狙い

 そのことを端的に示したのが、同じ8日の中国外交部定例記者会見における、チベット仏教の最も代表的な精神的指導者にして、長年インドでの亡命を強いられてきたダライ・ラマ14世への言及と、その後の奇妙な措置であった。中国外交部の新任副報道局長である郭嘉昆氏は外国記者から、ダライ・ラマ14世が犠牲者への哀悼と負傷者の早期回復を祈る声明を発したことについてのコメントを求められると、「ダライ・ラマの分裂の本質と政治的な意図を我々はよく分かっており、高度な警戒を保っている」(共同通信、1月8日)と発言した。この報道に対し、日本のネット上では「様々ないきさつがあるにせよ、哀悼の意に対して何という冷たい反応か」という類の驚きと当惑の声が上がった。

 一般的な感覚からいえば、チベットの地で自然災害が生じれば、国外にいるチベット人が哀悼の意を表するのは当然のことであろう。一方少なくとも、被災者の救済を現時点で第一義的に進めるのは中国の手によるしかない。

 チベット亡命政府のペンパ・ツェリン首相は犠牲者慰霊法要の席上、「中国はチベットでの脱貧困を実現したと主張しながら、家屋やインフラは脆弱なままだったことが被害を拡大させた。脱貧困という言説は本当だったのか疑わしい」と批判しつつも、寒冷さゆえに一刻を争う救援を中国が実施することを暗に望んでもいる(中央チベット行政府HP、1月8日)。そこで中国は、政治的に対立する相手方の発言であっても、人命の喪失のみに言及した内容であればノーコメントでとどめ、粛々と救援と善後処理に徹すれば良かったはずである。

 しかし中国側はこのように過剰な反応を示した。のみならず、中国外交部HPに掲載されている8日の記者会見の内容において、以上のやりとりは最初から載っていない。これは一体どういうことか。


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