2024年12月10日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年9月30日

 習近平政権は「共同富裕」を掲げて、社会主義的・愛国主義的な道徳心を植え付け直そうとしている。もっとも、当面は荒療治続きのようで、さまざまな動揺が伝えられる。

 2021年夏、中国では営利目的の学習塾や外国語教室の設立・運営が全面的に禁止され、高度成長の終焉により就職活動に苦しむ大学生の塾講師としての活路が狭められた。このとき、国家は小中学生の宿題の時間にも制約をつけ、より多くの時間を運動や家事手伝いに振り向けるよう要求した。

党の指導のもと奮闘する人々(遼寧省瀋陽市・中山広場で、筆者撮影)

 一方、中国には、技能・技術習得的機能を帯びた専科大学が多数あるが、中国共産党(以下、中共)は最近、これらを職業技能学校と統合のうえ高等専門学校に転換しようとしている。しかしその結果、本科大学と同等の学位を得られなくなることを知った学生の間に衝撃が走り、21年6月には南京師範大学で大規模デモが発生して鎮圧された。

 また中共は、就職状況の悪化と「寝そべり族」に象徴される若年層の積極性の危機に焦りを抱き、辺境地域・農村地域での就職を大いに斡旋している。それはある意味、文革時代の「上山下郷」、すなわち学生や知識人は困難な環境で働く農民に学んで精神を鍛え直すよう求められた運動に似ているが、別の角度から見れば、大卒者が少ない地域での経済発展を促進するための人材確保目的もあろう。問題は、これまでの高度成長のもとで育った一人っ子学生の就職観と必ずしもマッチングしないという点にある。

愛国主義教育の実態

 そして中共は学校教育全体にも照準を定め、昨年からは全学生必修の思想・政治課目の場を、「外部勢力」の影響と闘い、習近平新時代の道徳・労働・奮闘精神を錬成するための一大主戦場と見立てている。

 例えば中華人民共和国教育部は「青春を第20回党大会に捧げよう!強国に我ありと自負を抱こう!」「小さな我を大きな我(=国家・中華民族全体)に融け入らせ、青春を祖国に捧げよう!」といったスローガンを掲げた。その裏の狙いの一つは、党大会の前後において「誤った思想」が学内で流布するのを厳しく防ぐためであった (中華人民共和国教育部HP「教育部思想政治工作司2022年工作要点」)。

 しかしこの程度では、「白紙運動」に至るような若者の苦境には有効に作用しなかったといえる。しかも習近平政権自身、これまでのスローガンと型通りの政治教育が、教師にとっても学生にとっても中途半端で表面的なものに過ぎなかったのではないかと強く疑っている。

 そこで習近平政権が強く求めているのが、「大きな教室・教師・プラットフォーム」に依拠した「大思政課(大きな思想・政治課目)」の構築である。これはすなわち学校の授業と、各種の愛国・革命・記念館・展覧館・老幹部・科学者・労働模範といった存在を強く結びつけ、より生き生きとした、実践的で印象に残る講義・授業を通じて、青少年を真に社会主義建設の後継者にふさわしい存在として養成する、というものである(中華人民共和国教育部HP「全面推進“大思政課”建設」)。

 これはある意味、人民公社が工業・農業・商業・学校・軍事の一体化による「社会主義の大きな学校」と顕彰されたことの再来かも知れないが、職業体験やさまざまな見学を通じて社会性を磨くという発想はもちろん日本にもあるため、問題はその中身である。


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