2024年12月22日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年6月6日

 主要7カ国首脳会議(G 7広島サミット)の開催で世界中の耳目が日本に集まりつつあった5月19日、中国は西安で中国・中央アジアサミットを開催し、一瞬外界の注目を集めた。

G7サミットに対抗して開催したとも言える中国・中央アジアサミットの議場では、各国首脳が距離を置いて座っていた(代表撮影/ロイター/アフロ)

 しかし、G7サミットに集った首脳陣が互いに親密な距離と表情を見せていたのとは全く対照的に、巨大で空疎にすら思える会議場に揃った中央アジア5ヵ国の首脳陣はかなりの距離をおいて座り、往々にして表情も非常に硬かった(中国中央テレビが配信した10数分のまとめ動画を参照されたい)。中国がこのサミットを催した本質は、この距離感に凝縮されている。

中央アジアサミット開催へと動いた背景

 表面的にみればこのサミットは、習近平政権3期目にあたり内外に見せたい自画像と評価できる。

 2023年は、習近平氏による「一帯一路」提唱10周年、そして旧ソ連構成5ヵ国を指す「中央アジア」地域概念が固まってから30周年という記念すべき年である。そして西安を省都とする陝西省は、いわゆるシルクロードの起点であるのみならず習家父祖の地であり、習近平氏が文化大革命で「下放」され過酷な青春を過ごす中で「発展」「共同富裕」の夢を抱いた地でもある。

 習近平氏は、このようなタイミングと場所に中央アジア各国首脳を集め、あたかも中国文明を中心に、あまたの小国が包容され調和が実現する「天下」の秩序が復活したかのように振る舞った。

 実際、歓迎会場の施設は「大唐芙蓉園」と称し、万国からの朝貢使節を集めた儀礼を再現したかのような祝祭を通じて、中国のメディアは習近平氏こそ古来連綿と続く中華文明の正統な後継者であるというイメージを喧伝した。新華社の配信記事には「泱泱たる華夏、礼儀の邦」「万邦を協和するという中華民族独特の精神的ありよう」といった文字が並び、習近平氏は儒学が理想とする古代の聖人君子である堯・舜の再来であり、軍事力ではなく中華文明の強大な吸引力によって世界的影響を拡大すると高らかに謳っている。(「万邦を協和す」という文言は『書経』に由来する。昭和の「和」の由来でもある)

 もっとも、中国が「中国の智慧」を強調して儒学原理主義的な発想を展開するのは今に始まったことではない。それでも、習近平氏が天下を統べる有徳の聖人君子に自らを重ね合わせようとするのは、最近疑問符がつきまとう自らの求心力を挽回しようとするためであろうか。

 振り返ってみれば22年の中国は、毛沢東の死後最も混乱に満ちた一年であった。ほとんど非科学的なほどにバランスを欠いたロックダウンで、中国の社会と経済は極端に疲弊した。

 習近平氏のトップ3選を決めて政権をイエスマンで固めた10月の党大会は、胡錦濤氏の強制退場に象徴されるように、党内の多様な意見や立場をも封殺する事件であった。防護服に身を包んだ「大白(白衛兵)」の横暴と、その背後にある「人民至上・生命至上」という「最高指示」の信じられなさに対する人々の怒りは、11月末の「白紙運動」における打倒共産党の叫びにつながったことは記憶に新しい。最後のなし崩し的な集団免疫獲得の過程では、一時医療崩壊で多くの犠牲者も出た。


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