2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年6月6日

 23年の中国も、不動産バブル崩壊や地方政府の財政破綻の可能性を隠しきれなくなり、日米蘭による半導体製作装置輸出規制 (中国国内では深刻な問題として伝えられている) や若年層失業率の高止まり、そして少子高齢化などの懸念が積み重なり、今後をめぐる暗雲は消えない。

 だからこそ習近平政権は、G7広島サミットに狙いを定めて中華原理主義的な装いの大イベントを催し、G7サミットが如何に「卑小」なものであるかというイメージを流布した。中国外交部はG7サミットに対して「人権を持ち出して他国を批判するのではなく、人権をめぐる自らの劣悪な歴史を反省せよ」「中国による経済的な圧迫をあげつらう七国集団こそ、経済と貿易の武器化を進める真の脅迫者だ」「米国と少数の国家による閉鎖的なサークル(小圏子)が既得権益を得るような西側ルールの強要は受け入れられない」「西側がグローバル社会を操縦する時代は終わった」といった「文攻」を逞しくしている(中国外交部、5月20日)。

 とりわけ議長国の任を果たした日本については、垂秀夫駐中国大使を外交部に呼び出し、中国を「最大の戦略的挑戦」とした米日の姿勢を厳しく糾弾した。中国側がこのやりとりを「厳重交渉」と表現するあたり、如何に彼らが自らの立ち位置の揺らぎに強烈な危機感を抱いているかが分かる。

なぜ、中央アジア5カ国を集めたのか

 かくして中央アジア諸国は、西側諸国を向こうに張った習近平氏による宣伝攻勢に付き合わされるかたちとなってしまった。

 もちろん、習近平氏は「天下の主」として振る舞う以上、「包容」の精神で恩恵をもたらすことを忘れない。「中国・中央アジアサミット西安宣言」によると、今年は「一帯一路」の提唱10周年であることから、

*「一帯一路」を中央アジア各国の新経済政策・発展戦略と連結させる。

*貿易規模を全面的に拡大するために貿易手続きを簡素化し、交通インフラを強化する。

*農業やエネルギー等をめぐる協力を強化する。

*教育・文化・伝統医学・観光業・体育などの協力を深め、文化・芸術交流を展開する。

といったことを高らかに謳っている。

 また習近平氏のサミット基調演説では具体的に、

*中国と欧州を結ぶ貨物列車「中欧班列」の一層の拡充と、順調な運行のためのインフラ協力。

*天然ガスパイプライン整備。

*中国による技術者育成協力や、中央アジアに進出した中国企業による就業機会増加。

*中国による奨学金提供、文化センター設立、「シルクロード大学連盟」強化。

 といったことが華々しく打ち出されている。もちろんこれらは、中央アジア諸国が受ける便益以上に、中国が多大な戦略的利益を受けるものである。

 しかしこうした事柄や、その根本にある、「Win-Winの協力関係による新型国際関係と人類運命共同体の構築」といった精神は、そもそも昨年9月にウズベキスタンのサマルカンドで開催された上海協力機構首脳会議で確認されたことであった。

 そこで、今回中国は何故、上海協力機構加盟各国ではなく、中央アジア5ヵ国のみを西安に招待したのか、という問いかけが可能であろう。

 中国主導の会議で「一帯一路」提唱10周年を大いに祝い、「包容」の精神で多くの国々に恩恵をもたらし、「G7の卑小なサークル」とは比較にならない「天下一家」「協和万邦」の精神を実現するというのであれば、上海協力機構加盟国や多くの協力パートナー国をこぞって西安に招待し、会議場の巨大な円卓や歓迎会場の雛壇に多くの首脳がひしめく「万邦来朝」の絢爛な絵巻を描けば良かったはずである。「多極化世界」を創る「盟友」でもあるロシアのプーチン氏、上海協力機構の構成国でもあるインドのモディ首相、そして「多極化世界」に共感するブラジルのルラ大統領も西安に招くことは可能だったのではないか。イラン、パキスタンといった、中国と極めて密接な関係を持つ友好国も多数控えている。

 ところが今回、西安のサミットに参加したのは僅か5ヵ国であった。


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