2024年11月21日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年4月3日

 中国の国力と習近平独裁の力がこの10年来飛躍的に肥大化し、習近平政権は異例の3期目、あるいは毛沢東以来の長期独裁に入った中、外界、とりわけ日本をはじめ西側諸国は、中国の内政と外交の方向性をどのように見極めれば良いのか。

 結論から言えば、中国はますます増大する国力に対応して軍事力と外交力を一層拡大し、西側諸国のアクセスを許さない地政学的発展空間と言説空間を構築し、「多極化世界」を構築する。その行き着く先にあるのは、「国際関係の民主化」という名における既存の普遍的価値の否定と、グローバル文明の混沌である。

訪露を終えた習近平国家主席。異例の3期目に突入し、世界をも変えようとしているのか(Russian Look/アフロ)

 筆者の見るところ、習近平政権はこの目的を達成するために、一貫した内政・外交を組み立てている(それが合理的かどうかは別の問題である)。そこで、中国共産党(以下中共)第20回党大会・習近平政権長期化を控えた昨年9月以後最近に至るまで、習近平思想が折々に示してきた考え方を整理したい。

習近平思想の全ては中国人民の「中国夢」のため

 既に言い古されつつあることであるが、習近平政権の最大の存在目的は「中国夢」の実現に他ならないことの重みは強調してもしすぎることはない。その膨大な語りを要約すると以下のようになる。(詳しくは拙著『「反日」中国の文明史』をご参考頂きたい)

 世界五大文明の一つである中華文明を核として、「天下」にあまねく号令してきたはずの「天朝」は、近代以来列強の圧迫に喘いだ。近現代中国は立ち直りを図るも、結局は欧日ソなどの方法論に頼らざるを得ず、外来の「現代化」と中国文明のすり合わせに苦しんだ。

 しかし改革開放以来、中共の正しい指導のもと、ついに中国の主体的な発展が実現し、人民の生活水準は飛躍的に向上した。しかも中国は、さまざまな途上国にも恩恵と発展の方法論をもたらした。それは、さまざまな圧迫や搾取にまみれた、西側中心の近現代史の姿とは全く異なる。

 今や中国は、西側諸国への歴史的コンプレックスを打破し、中国自身が中国と世界の命運を決め、人類に共存の価値を提供するという、世界史本来の姿に立ち返る時がきた。これが「中華民族の偉大な復興」である。

 その力の源泉は、中国の文明的な力と先端科学技術を合わせて活用できる中共、とりわけその指導者である習近平氏にある。全ての中国人民が団結することで初めて社会主義現代化強国が実現する。したがって「中国夢」の主語は徹底的に、集団としての中国人民である。

 すると問題になるのは、集団の名における「発展」と「復興」の中で、個々人の位置付けはどうなるのかということであるが、この点に関する習近平思想の立場は明快である。個人のより良い生活・発展の夢は、そもそも国家と社会の安定と発展が実現しなければ絵に描いた餅に過ぎない。したがって、集団として実現する生存権・発展権と比べれば、個人の自由権は優先されないし、場合によっては発展権を阻害する反人権の危険思想ですらある。


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