去る9月にウズベキスタンで開催された上海協力機構首脳会議の際、プーチン氏と会った習近平氏の表情は今ひとつ暗く、プーチン氏を見下しているように見えた。実際中国は両者の対面について、正式で格式ある「会談」ではなく「会見」と格を下げて表現した。
これは、両者が「無限の協力」を謳った去る2月の対面時とは打って変わったものであり、ウクライナ戦争でのロシアの劣勢と混迷を見届けた中国がロシアと同列に見られることを避け、米国や西側との関係を再構築するのではないかという見方も散見される。
実際、そのように見える動きはなくもない。去る9月の国連総会に合わせて訪米した王毅外相は、ニクソン訪中と上海コミュニケ50周年を記念して「今後も中米両国の経済協力を通じて、異なる社会制度・異なる歴史文化を持つ二つの大国が相互尊重し平和共存すべきだ」という趣旨を述べた (中国外交部9月20日記者会見)。また習近平氏は、日本との国交50周年に際して「中日関係の発展を高度に重視し、岸田文雄首相とともに、新時代の要求に符合した中日関係を牽引したい」との祝電を発している。
しかし、こういった文言を以て、中国側が本気で関係改善や妥協を目指すと見るのは早計である。
中国は西側のグローバリズムに合わせるつもりはない。西側の論理が及ばず、中国の意のままになる国際政治的空間を創出し、それを西側に認めさせることが、中国のいう「相互尊重」「平和共存」「多極化」である。
習近平外交は外交部の「戦狼」を使い、あたかも京劇で瞬間的に表情を変える「変臉」の如く、硬軟両様の表情を使い分けて長期的な目標の達成を企図している。このことがいま最も顕在化しているのが、新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒少数民族に対する人権抑圧の是非をめぐる、中国と欧米諸国の争いに他ならない。
国連新疆報告書に向けた対中批判高揚と中国の牽制
ここ数カ月、この問題の注目点となっているのは、去る5月のバチェレ国連人権高等弁務官による新疆訪問である(その実現に至るまでの曲折については、Wedge ONLINE「流出した「新疆公安ファイル」 独自の人権概念掲げる中国」で詳しく論じたのでご参照頂きたい)。
中国はこの訪問について、「新疆の安定と繁栄」をバチェレ氏に見せて「中国ならではの人権発展の成果を共有する」ことに重点を置いた。バチェレ氏の発言を改竄して中国賛美を誇張したことから (VOA、5月25日)、バチェレ氏訪中の実態や、追って発表される新疆報告書の内容をめぐる外界の批判的関心も強めざるを得ず、報告書の発表阻止を目指す中国側の動きも慌ただしさを増した。
6月に入ると、欧州議会は新疆におけるジェノサイドの深刻な懸念を示す決議を行い、 国際労働機関(ILO)も新疆の労働者政策をめぐるさらなる調査の必要性を示したほか、米国は新疆からの輸入を原則禁止する法律を施行した。6月末の主要7カ国首脳会議(G7サミット)・コミュニケや、7月14日に米国国会に提出された「ジェノサイド暴力予防法」報告書は、新疆での人権問題にも厳しく批判したほか、8月24日の米国グローバル・エンゲージメント・センター報告書は、中国政府が内外で新疆に関する虚偽情報を流布し主導していると批判している。