中国が図る「多極化世界」
このように国連人権高等弁務官事務所の新疆報告は、中国側の「新疆は良いところ」「新疆における安定と発展による人権の充足」という宣伝を完全に否定した。中国外交部は「高等弁務官は米国と西側の途上国叩きの手先に堕した」「この報告はフェイクニュースの寄せ集めであり、何らの信憑性もなく、米国と西側の世紀の嘘は破産した」と痛罵した (中国外交部9月1日記者会見)。
一方、この報告を受けてグテーレス国連事務総長は、中国が新疆報告書を受け容れて事態を是正するよう求め、米国のバイデン大統領も国連総会での演説で新疆報告書にも言及した。欧州連合(EU)はこの報告書を受けて、強制労働による製品を禁止する方向で動き出した。
そして9月26日、米国をはじめ西側諸国が、国連人権理事会で新疆情勢を特別討論するよう提案している。総じて、この報告が新疆問題をめぐる国際政治の新たな段階を開いたと言えよう。
これに対して中国側も、西側の影響が及ばず中国主導で事が運ぶ勢力圏を囲い込む動きを強めている。中国が目下その最たる場としようとしたのが、去る9月の上海協力機構首脳会議に他ならない。
席上習近平氏は、大小の国家の一律平等、異なる文化の共存による対話を呼びかける一方、「外部勢力がカラー革命を策動するのを防ぎ、如何なる口実によっても他国の内政に干渉することには反対し、自国の前途と命運を自らの手中に堅く掌握し、『真の多辺主義』で協力を増進せよ」と強調した(中国外交部公式HP、9月16日)。そして「サマルカンド宣言」では、「各国が自主的に選択した発展の道を行く権利を互いに尊重し、相互の主権・独立・領土の一体性・内政不干渉を尊重せよ」といった文言に続けて、反テロ、反分裂主義、反極端主義の協力体として上海協力機構を運用しようとする趣旨が盛られている。
中央アジアは新疆に連なる要地であり、各国それぞれの体制を認める代わりに、新疆のウイグル・カザフ人と文化を共有する中央アジア諸国の人々が新疆問題を批判するのを封じるものと言えよう。
プーチン対談を「会見」とした意図
こうした流れに即して言えば、中国の言う「多辺主義(マルチラテラリズム)」とは、従来の国際法やグローバルな規範とは関係なく、真に力をつけ台頭した大国が自らに好都合な規範や秩序を構築し、既存のグローバリズムと並存することを認めさせるものである。中国とロシアが、このような考えで互いに示し合わせていることは、「互いの核心的利益に関わる問題で互いに力強く支持する」という習近平発言からも明らかである。
だからこそ両国は互いを後ろ盾として、新疆問題をはじめ「中国の統一」をめぐる問題における強硬策と、「東スラブ民族の大統合」を目指すウクライナ侵略を黙認し合い、中国はウクライナ侵略に関して「双方の平和的な話し合いを支持する」という中身のない態度に終始している。
習近平氏がプーチン氏との「会見」で見下したような態度をとり、プーチン氏が「中国側の懸念を理解する」と発言したのは、もしプーチン・ロシアが失敗すれば、中国が目指す多極化世界の方向性が磐石でなくなり、西側主導のグローバリズムに単独で対抗しなければならなくなるという隠然とした不満の表れではないか。
このように新疆をめぐる問題はますます、ウクライナ問題や今後のグローバルな世界の姿をめぐる争いと密接につながっている。日本は中国との国交50年において、中国の日本に対する「変臉」に一喜一憂するのではなく、激変する世界において日本が占めるべき位置をどう考えるのかという見地から、中国に対し一貫した対応をするべきである。
日中国交正常化50年、香港返還25年と、2022年は、中国にとって多くの「節目」が並ぶ。習近平国家主席が中国共産党のトップである総書記に就任してからも10年。秋には異例の3期目入りを狙う。「節目」の今こそ、日本人は「過去」から学び、「現実」を見て、ポスト習近平をも見据え短期・中期・長期の視点から対中戦略を再考すべきだ。。
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