習近平政権が発足して10年が経とうとしている。この間、中国において漢族以外の少数民族への引き締めは格段に強まった。とりわけ新疆ウイグル自治区では「反テロ人民戦争」のスローガンのもと、ウイグル族をはじめとする少数民族に対する監視が強化の一途を辿った。本来であれば「テロリスト」とは関係のない人までが、国外渡航経験がある、産児制限に違反したなどの理由で、「職業技能教育訓練センター」と呼ばれる施設に収容され、教育による〝改造〟を受けることとなった。
これには、ウイグル族、カザフ族など、新疆に住むテュルク系ムスリムが、旧ソ連、中東イスラーム世界と深いつながりを有しており、必ずしも中国人というアイデンティティーを持っていないという背景があった。さらに改革開放の進展につれ、経済格差は開き、民族間の対立は深刻化した。
2009年にウルムチ騒乱が起こると、その前年のチベット・ラサ暴動もあって、新疆、チベットの問題が深刻であることは誰の目にも明らかとなった。さらに新疆の少数民族が実行したとされる事件が、13年に北京の天安門で、14年に雲南省の昆明駅で発生すると、内地の世論の突き上げも強まった。極め付きは14年の習近平主席の新疆視察にあわせて起こったウルムチ南駅爆発事件であった。これを受けて政権は新疆の少数民族に対し容赦ない攻勢に打って出た。それが「テロリスト」への先制攻撃も辞さない「反テロ人民戦争」であり、また「テロリスト」予備軍と目された人を先手先手で収容、改造する政策であったと考えられる。
各地で発生した事件が要因と
なり習近平政権は統制を強めた
習近平政権は、「攻略戦」などという威勢のよい表現を多用して、「反テロ」「脱貧困」など、さまざまな政策を推進してきた。「テロの根絶」「貧困からの脱却」といった政策目標の達成に向け、攻勢が強められた。そうした中、少数民族の人々のアイデンティティーに対する介入も強化された。
その最たるものが、中華民族としての共同体意識を人々の心の中に「鋳牢」する(鋳造するようにしっかりと確立させる)という政策である。21年8月の中央民族工作会議における習近平主席の重要講話には、この中華民族共同体意識を「鋳牢」させることで、「中華民族をより一体感のある、凝集力の強い運命共同体にしていく」という一節がある。単にアイデンティティーというより、さらに強い運命共同体的な一体感が、中華の歴史的伝統を必ずしも共有しない少数民族や、香港、マカオ、台湾の「同胞」、海外華僑に対しても、一方的に求められるようになった。