今年は年初から身近なところに暗いニュースが飛び込み、嫌な1年のスタートとなった。私の勤務する東京大学の博士課程に在籍する區諾軒(アウ・ノックヒン)氏が、1月下旬に控えていた裁判に出廷するため、日本から香港に一時戻った直後に逮捕されたのだ。私はしばしば、彼の学業や生活の相談に乗っており、初詣にも一緒に行ったところだった。
區諾軒は区議会議員などを経験した後、2018年3月、民主活動家の周庭氏が立候補予定だった補欠選挙で彼女の代わりに立候補し、立法会議員になった。この補欠選挙は、羅冠聡(ネイサン・ロー)(香港国家安全維持法〈国安法〉の施行後、イギリスに亡命)が議員資格を取り消された後に行われたが、周庭は、選挙管理委員会に立候補を認められなかった。周庭は選管の手続きは不当だと裁判所に訴え、19年9月、高等裁判所は彼女の訴えを認めた。しかしその結果、補欠選挙は無効だと判断され、區諾軒は議員の職を失った。區諾軒は次の進路を考え、研究者になることを目指して日本にやってきたのだった。
「国安法違反」による一斉検挙
理解できない逮捕理由
しかし區諾軒は1月6日、民主派の関係者約50人とともに、国安法違反の容疑で逮捕された。この一斉検挙は、昨年7月、次期立法会選挙の立候補者を調整するために民主派が行った予備選が関係していると見られている。
區諾軒は昨年6月以降、4度逮捕されている。1つ目の罪は警官襲撃罪。恐ろしい罪を犯したかのようだが、區諾軒が拡声器を使ってデモを取り締まる警察官を非難した時に、この警察官は耳を痛めたのだという。有罪となり、140時間の社会奉仕活動が命じられた區諾軒は、来日する前にその一部を済ませてきた。1月20日に行われた上訴審でも、區諾軒の無罪の主張は退けられた。
2つ目は議会での議事進行妨害罪だ。區諾軒は議場を破壊したり、議員に暴力をふるったりしたわけではなく、逃亡犯条例改正案に関する議論が白熱し、親中派議員のマイクを奪おうとしたが、奪えなかったのだという。このような罪は前例がなく、有罪とするなら裁判官が何を根拠にするのか、區諾軒の弁護士でさえ、わからないという。
3つ目の違法集会への参加というのは、19年8月、區諾軒も招集人の一人を務めていた民間人権陣線(民陣)が呼びかけたデモへの参加を指している。平和的、理性的、非暴力の活動を貫く民陣はこの日、銅鑼湾(コーズウェイベイ)のビクトリアパークを出発し、中環(セントラル)の方向へと人の流れを誘導する計画を立て、デモの許可を警察に申請済みだった。しかし、警察は途中で、中環方向での活動には「反対通知書」を出したため、民陣は増え続けるデモ参加者をうまく制御できなかった。
そして、この1月の逮捕は国安法違反の容疑で、国家政権転覆を企んだ疑いがかけられていると言われている。しかしなぜ、予備選を行うことが、国家政権転覆を企てることになるのか。