なぜ、中共にとって不利になる数字が中国の統計として出て来たのか。そして、もしこの数字が事実であれば、中長期的に見て、中国に進出、あるいは「一帯一路」を利用している日本企業にも影響を与えることは必至である。
中国領新疆ウイグル自治区における、中国共産党(以下中共と略す)当局による少数民族への過酷な抑圧は、その実態が次第に広く知られるようになるにつれて、西側諸国における強い懸念の対象となっている。
とりわけ米国では与野党を問わず対中世論が硬化した結果、2020年6月には「ウイグル人権法」が成立したのみならず、連邦議会および行政当局の中国委員会(CECC)は1月14日、「2020年中国人権・法治報告書」の中で、新疆での事態はジェノサイドにあたると批判した。
これを受けてポンペオ前国務長官は19日、政権交代に伴う最後の仕事として、新疆ウイグル自治区におけるジェノサイド(民族・文化的な差異による大量虐殺)を認定したほか、バイデン政権の新国務長官に指名されているブリンケン氏も即座に、この認定に同意する旨を示した。
これに対して中国外交部の華春瑩報道局長は、同日の定例記者会見で次のように言い放った(中国外交部公式HPから筆者訳)。
「中国が新疆で実施している『ジェノサイド』や『反人類的な罪』なるものは徹頭徹尾、ポンペオが代表する個別の反華・反共勢力が意図的に砲撃を加えてきた、人の耳目を驚かすような偽の命題、悪意ある荒唐無稽な騒ぎであり(中略)、過去も現在も未来も中国の大地には発生しない!」
「新疆問題をめぐるポンペオの各種のたわごとは、2500万の新疆人民を含む中国人民に対する極大の侮辱であり、米国人民や国際社会の判断力に対する極大の侮辱であり、人類の道義と基本的な良知に対する反逆と挑戦である」
華報道局長の発言はまるで「新疆ジェノサイドとは西側諸国が捏造したものであり、虚構である」と断じるものであり、「戦狼」外交そのものである。
中国統計年鑑に示された
衝撃的な数字
このように米国と中国の対立が激化する折も折、筆者は最近の中国少数民族に関する別稿を執筆するため、中国で最も権威ある統計である『中国統計年鑑』の数字をもとに少数民族の人口動態を確認しようとしていたところ、衝撃的な数字を発見した(『中国統計年鑑』はネットで閲覧でき、日本語でも一部は『Science Portal China』からアクセスできる)。
近年、中国の他の少数民族地域では総じて少数民族人口が漸増しているにもかかわらず、新疆ウイグル自治区のみ、2017年~19年にかけて、総人口が2444万6700人から2523万2200人へと78万5500人増加した一方、少数民族人口は1654万4800人から1489万9400人へと、何と164万5000人も激減しているという異常な人口動態を見せている(詳細な分析は後述する)。
これは自ずと、新疆ウイグル自治区における少数民族が極めて「不自然なかたち」で急減し、それを上回るかたちで外来の漢族が新疆に補充されたことを意味する。その結果、新疆における少数民族の比率も、僅か2年間で67.7%から59.1%へと、8.6%も減少するという異常事態となっている。
果たして華春瑩報道局長は、自国で最も権威がある統計が示している数字を、単なる「たわごと」「荒唐無稽」「侮辱」と切って捨てることが出来るのだろうか?
新疆弾圧を巡る
歴史的な経緯
それにしても、なぜ新疆ではこのような事態が起こってしまったのか。