2024年4月20日(土)

WEDGE REPORT

2021年1月25日

 そのうえで新疆当局は、収容者に華語教育、そして「トルコ系ムスリムとして生まれたことを罪と認識し、身も心も中国人に生まれ変わる」よう促す「中国化」教育を強要しているほか、収容者を区分して一部を厳格な管理の下に置き、さらに犯罪者として刑務所に送るなどの措置がとられ、少なくない人々が拷問によって命を落とす運命に直面した。

 20年10月『BuzzFeed Japan』に掲載された記事「元収容者たちが語る、ウイグル自治区の強制収容所の過酷な現実」では、とりわけ17年には余りにも多くの人々が強制収容所に連行され、混乱を極めたことが明らかにされている。

17年の大量連行と人口急減
この意味することとは?

 筆者は、このような内部文書、現実に伝えられる報道や画像、そして当事者の証言などから、真実の所在は概ね明らかだと考えるが、それでも中共・中国外交部は「捏造」「純粋に自発的な職業訓練施設」と徹底的に否定するだろう。

 だからこそ、中国の正式な国家統計である『中国統計年鑑』の数字こそ、新疆での事態について動かぬ証拠を見せているものとして、注目しないわけには行かない。

 中国では、センサス(人口普査)は10年に1回実施され、最新の20年センサスの結果は今のところ明らかになっておらず、『中国統計年鑑』における中国の公称56民族の人口統計は、最新の20年版においても10年センサスのものが収録されている。したがって、これをみる限り、トルコ系イスラム教徒に対するジェノサイドの実態は未だ反映されていない。

 しかし『中国統計年鑑』のうち「25-17 民族区域自治地方の行政区画と人口」の17・18・19年のデータ (それぞれ18・19・20年版に収録)を見ると、新疆ウイグル自治区を含めた「民族区域自治」実施地域について、行政上把握する必要のためであろうか、国家・地方が集中管理している檔案=個人情報に基づいていると考えられる人口変動が掲載されている。

(読者の皆様には、可能であればアクセスの上、当該画面をスクリーンショットされたい。2018年版2019年版2020年版。いずれも「25-17 民族自治地方行政区划和人口」の欄参照。なお、中国における「民族区域自治」は地方自治ではなく、共産党の指導という大前提の下、少数民族地域の実情に照らした政策を実施する枠組みに過ぎない)。

 そこで例えば、華語とは異なる文字文化を発展させてきた人々が多数住む内モンゴル自治区、チベット自治区、青海省、甘粛省、四川省、新疆ウイグル自治区について、民族区域自治の対象地域(自治区はその全体。各省の場合は民族自治州・自治県)における全人口の変動と少数民族人口の変動を比較すると、17年~19年にかけて、内モンゴル自治区・チベット自治区・青海省・甘粛省・四川省では総じて少数民族人口が増加している。

 しかし繰り返しになるが、新疆ウイグル自治区の場合、17年~19年にかけて総人口は2444万6700人から2523万2200人へと78万5500人増加し、2年間で3.2%増えたものの、少数民族人口は1654万4800人から1489万9400人へと164万5400人も減少し、マイナス9.9%を記録した。

 とりわけ17年~18年の1年間に、新疆で少数民族人口が占める比率は7.5%も減少しており、17年に凄惨な弾圧と死、そして収容所内の大混乱があったとする『BuzzFeed Japan』所収の証言とも一致する。

新疆ジェノサイドはあった
なぜ中共はこの数字を出したのか?

 筆者は、この数字こそが新疆ジェノサイドの実態を物語っていると考える。なぜなら、元々全ての中国公民には身分証が交付され、それに対応してあらゆる個人情報が公安当局によって管理されており、公民が様々な原因によって死に至った場合の記録も、今やITによって瞬時に国家全体のデータとして反映されると考えられるからである。

 とりわけ新疆ウイグル自治区においては、IT・AI独裁の極みである「一体化聯合作戦プラットフォーム」が運用されており、強制収容所収容者の生死に関する情報もまた厳格に管理され、国家・自治区の公安情報データに反映されているはずである。そこに現れた数字を機械的に反映したのが、『中国統計年鑑』の数字に他ならないだろう。

 つまり、高度なプラットフォームを構築したことで現れた真実を中共自身が甘く見て、いつかありうる外界の批判を逃れるための隠蔽を怠ったという点で、これは中共の「オウンゴール」と表現しうる。

 一方、この数字の背後にいる中国の統計関係者は、職業倫理と良識に則って終始誤魔化しをせず、正直に、処分覚悟で新疆の実態を世に問うたのではないか、と推測することもできる。

 今後、この数字は改竄されるかも知れない。しかし、もし実際に中共・中国政府がこの統計を改竄し、新疆でのジェノサイドについて改めて「捏造」と主張するのであれば、『中国統計年鑑』そのもの、そして今後中国が示すあらゆる数字に対する国際的な信用が失墜することになろう。


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