2025年4月9日(水)

日本の医療〝変革〟最前線

2025年4月4日

 介護が必要な高齢者が介護サービスを自由に選択できるのが介護保険制度である。「自己選択、自己決定」できる選択肢の広がりが受け入れられた。

 それは、死の迎え方にも及ぶはずだ。QOL(生活の質)と同様に、QOD(死の質)の在り方も問われる。死の選択の判断として、延命治療よりも「穏やかな最期」が重視されだした。

(sittithat tangwitthayaphum/gettyimages)

 それを実現できる尊厳死、安楽死への関心が高まりつつある。死への選択肢が広く議論され、制度化への道筋が考えられてもいいはずだ。

欧州で進む安楽死の法制化

 英国下院が昨年11月末、安楽死法を可決した。「自ら命を絶つ権利を認める法案」を提出したのは労働党議員。「患者は苦痛に耐え続けるのではなく、尊厳を保ちつつ最期を迎える権利がある」と訴えた。余命半年未満の本人が、医師から渡された致死薬を服用し、なお2人の医師と裁判所の同意が必要という条件付きである。

 上院での審議が必要だが、スタ―マー首相も賛意を示し、世論調査でも73%が法案を支持している。

 フランスのマクロン大統領は昨年3月、安楽死法案の国会審議を促した。無作為抽出された一般国民184人で構成する「市民会議」が審議を重ね、安楽死是認の報告書を提出したことによる。昨夏の国民議会選挙で政権が揺れ、日程が滞っているが、近々採決されるだろう。

 欧州の主要国で安楽死の法制化が勢いづいてきた。世界で初めて安楽死法を施行したのはオランダである。2001年に法制化し、翌年施行した。それまでに、オランダ各地で多くの安楽死事件や裁判所の判決が積み重ねられてきた。

 1971年のポストマ事件が嚆矢だ。脳溢血で半身まひ、自殺未遂を繰り返す母親から「私の終末を助けて欲しい」と懇願された娘の医師ポストマさんが、致死量のモルヒネを投与し母親を死亡させた。2年後の裁判では、1年の執行猶予付き禁固1週間の判決となり、事実上、安楽死を容認した。

 法制化によって、一定の要件を満たすことで医師への罰則の可能性がなくなった。その要件とは①本人の自発的意思による②耐え難い苦痛がある③医師と患者が他の解決策がないと判断した④家庭医とは別の医師の了解を得る―――などだ。重視したのは医師の関与である。安楽死の意思をまず家庭医に打ち明け、理解を得ると、別の初対面の医師の承認も必要だ。

 さらに死亡後に検視医が経過を確認する。こうして3人の医師がすべて了解すれば安楽死が成り立つ。

 アムステルダム郊外で筆者が訪ねた診療所の所長から「転倒不安を抱えた93歳の高齢者が安楽死を望んでいた」という事例を聞いた。リハビリ訓練を繰り返したが、転倒は治らず、車いすの利用は拒否し続けた。

 安楽死の日に息子とビールを酌み交わし、致死薬の投与を受けたという。6要件の中には終末期はなく、安楽死を成就できた。


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