2025年12月5日(金)

日本の医療〝変革〟最前線

2025年4月4日

 「安楽死4要件から逸脱していた」と批判もされた。4要件とは1995年に横浜地裁が、薬物注射で患者を死亡させた東海大学病院事件の判決文で示した。①耐え難い肉体的苦痛②終末期③苦痛緩和の代替手段がない④本人の意思が明白――である。このうち④しか該当しないので安楽死と言えない、と識者たちは指摘した。だが、スイスでの要件は異なり、小島さんたちは了解された。

法律が審議されない日本

 日本の国会では安楽死が審議されたことはない。自己決定の観点から安楽死の前段階といえる尊厳死の法制化も進んでいない。

 延命治療を拒否して自然な死を迎えるのが尊厳死である。12年に超党派の「尊厳死法制化を考える議員連盟」が「終末期の医療における患者の意見の尊重に関する法律案」を公表した。延命治療を施さなくても医師の責任を問わない内容だ。

 障害者団体や日本弁護士連合会などから「終末期の定義が不明確」「患者の意思確認が疑問」「医療、介護、福祉の諸制度がまだ不備」などと反対された。

 23年には「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」が名称から尊厳死を外して再スタートしているが、足踏み状態だ。

 フランスや英国、ドイツなど欧州諸国はかなり前に、アジアでも12年に台湾、16年に韓国が尊厳死を法制化している。安楽死も尊厳死も、本人の自己決定を最優先とする考え方であり、死への選択肢を増やすことにつながるはずだ。

 安楽死を望んでいた橋田寿賀子さんは、延命処置を断り、尊厳死で亡くなった。急性リンパ腫で入院していたが、自宅に戻り、「本人の要請で人工呼吸器を医師に外してもらった」と泉ピン子さんは語っている。安楽死願望の本を書いた4年後、21年4月。95歳だった。

 尊厳死は法制化されてはいないが、医療現場では「本人の意思決定権の尊重」という意識が共有され、かなり浸透してきている。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る