<本日の患者>
N.C.さん、43歳、女性、クリーニング店オーナー。
「ところで、その後お兄さんの経過はいかがですか。確か前回は、近々手術をすることになったと言ってましたよね」
「はい。手術を受けて胃を半分とリンパ節を取りました。手術はうまくいったそうですが、思ったよりがんが深いところまで浸潤していたので、今は抗がん剤治療を受けています。それから……」
「それから、どうしましたか」
「今度、『緩和ケア』という科の先生の診察を受けるそうです。でも、『緩和ケア』ってホスピスのことですよね。前にテレビのドラマで見ました。兄の状態はそんなに悪いんでしょうか。死が近いってことなんですよね。私はそれが心配で」
N.C.さんは、2024年1月の『家族ががんと診断されたら 付き合い方を家庭医が解説 かける言葉は?どう介護するか?勝ち負けのない生き方』に登場したクリーニング店オーナーだ。今年初めに胃がんが診断された兄のことをとても心配していて、私は時々経過を聴いている。
彼女自身は、その後、新たに胃腸の不調を訴えるようになっていて、引き続き私のいる診療所でケアを継続している。過敏性腸症候群が考えられるが、これについてはまた別の機会にお話ししたい。
緩和ケアとは
さて今回は、N.C.さんが心配している「緩和ケア」と家庭医の関わりについて書いてみたい。
「緩和ケア」の定義については、世界保健機関(WHO)が02年に発表した定義をもとに、日本の緩和ケア関連18団体が共同で「定訳」を作成して次のように発表している。
「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のクオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである」
*注:WHOは、緩和ケアについてのウェブサイトを2020年8月5日に更新しており、定義に対応する部分も下記のように若干変更されている。