2024年12月4日(水)

家庭医の日常

2024年6月28日

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(Mariia Vitkovska/gettyimages)

<本日の患者>
M.T.さん、41歳、女性、スーパーマーケット勤務。

「先生、あのタレントも乳がんだったんですって。テレビで『検診のおかげで命拾いしました』って言ってました。だから、私も乳がん検診を受けてみようと思います」

「M.T.さん、昨年はがん検診に興味を示さなかったのに、いよいよですね」

「えっ、先生、何か言いたそうですね(笑)。もう『アラフォー』だから乳がん検診できるんですよ。区からの受診券も送られてきました」

「はい、できます。ただ、乳がん検診のメリット(利益)とデメリット(不利益)について理解してから検診を受けてもらいたいんです。お話し聴いてもらえますか」

 M.T.さんは、近所で評判の良いスーパーマーケットで、そこの看板の青果部門を担当している。6年前にひどい手指の湿疹で私の働く診療所を利用して以来の付き合いだ。実は、昨年彼女が40歳になった時に、私は乳がん検診について説明しようとしたことがあるが、「まだまだ若いから大丈夫」と言われて保留にしていたのだ。

乳がん検診についての情報源

 日本では、厚生労働省が「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」でがん検診の方法を定めており、40歳以上の女性は2年に1回、問診とマンモグラフィ(乳房X線検査)からなる乳がん検診を受けることが推奨されている。このウェブサイト自体を一般の市民が探すのも容易ではないと思われるが、たとえここに到達しても、ここに書かれていることだけで乳がん検診を受けるか受けないかを判断することは困難だろう。

 専門学会としては、日本乳癌学会が4年ぶりに全面改訂した『乳がん診療ガイドライン2022年版』を発表していて、同学会から一般の人向けに『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版』も公開されている。

 このガイドラインの乳がん検診についての解説ページには、(1)乳がん検診の利益と不利益、(2)対策型乳がん検診(住民検診)と任意型乳がん検診(人間ドック、職域検診など)の違い、(3)高濃度乳房(乳房内の構成が脂肪に比べ乳腺の割合が多く、マンモグラフィーでがんを見つけにくい)の問題点、(4)乳がん検診と年齢(39歳以下の女性では推奨されない)の関係、そして(5)ブレスト・アウェアネス(日頃から自分の乳房の状態を意識して早期の変化に気づくための生活習慣)の重要性などが解説されている。

 今までの日本の主だった機関で公開されている情報よりも当事者が知るべき内容に踏み込んだ解説になっていて評価できる。実際には、乳がん検診をするかどうか相談に来た人と家庭医が共同意思決定(入手可能な最良のエビデンスを用いて医療者と患者が一緒に意思決定するアプローチ。詳しくは2022年4月の『患者の意思に沿うため家庭医の卵が学んでいること』参照)する際に、このガイドラインの項目を参照しながらさらに必要な情報を加えて相談していくと良いだろう。


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