偽陽性と偽陰性の問題も
これに加えて、検診に限らずどんな検査でも、2023年12月の『痛風のマネジメントから見る適切な検査と診断』に書いたように、必ず偽陽性(本当は疾患がないのに検査結果で疾患があると出る)や偽陰性(本当は疾患があるのに検査結果で疾患がないと出る)というエラーが存在する。偽陽性の場合は不必要な精密検査や治療が始められてしまう危険があるし、偽陰性の場合は疾患が見逃されて放置されてしまう危険がある。
もちろん、こうした検診時に将来生命を脅かす乳がんかそうでないかを鑑別する方法、そして、偽陽性と偽陰性をギリギリまで少なくするための方法については、日夜研究が進められている。遠からず、実際の検診や臨床の場面で活用できる優れた方法が開発されることを期待したい。
米国乳がん検診ガイドライン改訂の背景
米国医師会雑誌『JAMA』が、米国予防医療専門委員会(USPSTF)による乳がん検診についてのガイドラインの改訂版を今年4月30日に発表してちょっとした話題になっている。
前回2016年版のUSPSTFのガイドラインでは、すべての女性が50歳から検診を開始し74歳まで2年ごとに定期的な乳がん検診を受けること、そして40~49歳の女性では検診の利益と不利益を個別に判断することを推奨していた。
今回の改訂版では、すべての女性が40歳から74歳まで2年ごとに定期的な乳がん検診を受けることを推奨しているのだ。
検診開始年齢を10歳引き下げた背景には、40~49歳の女性における乳がん罹患率は2000年から2015年にかけて徐々に増加していたが、15年から19年にかけてより顕著に増加し、年間平均2.0%の増加となったことがある。
さらに、黒人女性は、マンモグラフィー検診の受診率が同等かそれ以上であるにもかかわらず、より悪性度と進行度の高い乳がんと診断される可能性が他の人種や民族グループよりも高く、白人女性と比較して乳がんで死亡する可能性が約40%高くなっていることが明らかになったからだ。
こうして、乳がんの早期発見を増やし、乳がん死亡率の不平等に対処するという包括的目標を設定してガイドラインを改訂したのである。
さらに、USPSTFは診断技術の進化にも素早く対応して、推奨される一次検診方法を更新し、デジタル乳房トモシンセシス(3Dマンモグラフィー)を含めた。デジタル乳房トモシンセシスは、検診に関連する偽陽性を減らすことによって、従来のデジタルマンモグラフィー(2Dマンモグラフィー)と比較して検診の利益と不利益の比を改善すると結論している。
その他、今回のガイドライン改訂でUSPSTF は、75 歳以上の女性に対するマンモグラフィによる乳がん検診の利益と不利益、および乳房超音波検査(エコー)または磁気共鳴画像法 (MRI) を乳がん検診の補助に用いることの利益と不利益を判断するにはエビデンスが不十分であると結論付けている。