2024年7月2日(火)

家庭医の日常

2024年6月28日

変化への対応に備えなければならない

 こうした医療の不平等について、日本ではあまり意識されていない。それどころか、一般の検診受診者への共同意思決定もおぼつかない。だが、日本に住む外国人や社会経済的に恵まれていない人たちに対しても、がん検診について十分な情報を提供して共同意思決定を行えるシステムを準備していく必要がある。プライマリ・ヘルス・ケアの多職種保健チームでアプローチすることも有効だ。

 諸外国では、がん検診対象者の年齢上限を設定している(例:米国はガイドラインを作成している学会等により異なるが74歳までが多く、英国は70歳まで)が、日本には上限がない。何歳になっても高齢者にがん検診をすることの利益と不利益を明らかにして議論する必要がある。

 医療技術の長足の進歩へも対応しなければならない。検診とその後の精密検査にいかに最新技術を導入して診断精度の高い(偽陽性・偽陰性の少ない)標準化を図るのか。冒頭紹介した『がん検診実施のための指針』にエビデンスの乏しい胃部エックス線検査(胃がん検診)や胸部エックス線検査(肺がん検診)をいまだに含めている日本である。課題は多い。

 今回のUSPSTFのガイドライン改訂では、医療技術の進歩が早い時代に時間と費用のかかるオーソドックスな臨床研究に代わる新しい医療技術評価方法導入を試みているのも注目される。このことについてはいずれお話ししたい。

症状がある場合には検診はスキップして次へ

「検診のデメリットも考えなきゃならないんですね」

「なかなか悩ましいです。ところでM.T.さん、改めて確認しますが、乳がんと関係している可能性がある次のような症状はありませんよね」

・乳房、胸部、または脇の下にしこりがある
・乳房の皮膚にへこみ(オレンジの皮のように見える場合がある)や赤みなどの変化がある
・片方または両方の乳房の大きさや形が変わる
・(妊娠または授乳中を除いて)乳首から分泌物が出たり血液が混じっている
・乳首の形や外観が変わる(乳首が陥没するなど)または乳首に発疹が出る
・乳房または脇の下に痛みが持続する 

「ありません、大丈夫です」

「それはよかった!」

 2022年4月の『患者の意思に沿うため家庭医の卵が学んでいること』で書いたように、スクリーニング(検診/健診)とは「ある疾患によると考えられる症状がまったく無い人に対してその疾患に罹っている可能性がどの程度かを調べること」である。症状のある人にその疾患がないかの診断を進めていくこととは異なることに注意が必要である。

 もし上記のような症状があれば、乳がん検診ではなく、診断のための診察・検査を進めるかを家庭医・総合診療専門医またはかかりつけ医に相談してほしい。

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