2025年5月23日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年4月23日

 Foreign Policy誌(Web版)は3月20日付けで、かつてのニクソン政権(1969年〜74年)がベトナム戦争から手を引こうとする中、対外的な防衛コミットメントを縮小したことが契機となって、韓国、台湾が核保有を目指した歴史的経緯を振り返りつつ、第二期トランプ政権の政策が核拡散にどのような含意があるかを分析した、ダートマス大学のニコラス・ミラー准教授による論説‘How Nixon Pushed Allies to Build the Bomb’を掲載している。概要は次の通り。

(Gerasimov174/Backiris/gettyimages・vids)

 核拡散の懸念は2022年のロシアのウクライナ侵攻以来、高まっていたが、トランプ政権がロシアに接近する一方、同盟国から距離を置く政策をとっていることから、米国の同盟国の中に、核兵器を取得することで自ら安全保障を確保しようとするものが出てくる可能性がある。近時、ポーランド、ドイツ、韓国で核兵器への関心が示されている。

 米国の大統領が主要な敵国との妥協を試みるとともに、同盟関係による負担を大幅に削減しようとするのは初めてではない。かつてニクソン政権は中国との関係構築を目指し、アジアにおけるプレゼンスの削減を目指した。ニクソン政権の政策により、主要な米国の同盟国が実際に核保有を目指した。

 ニクソン大統領は69年、ベトナム戦争への関与のような事態を避けるべく、今後、アジアの同盟国に対する通常戦力による防衛の提供で主要な役割を果たさないことを宣言し、この政策はニクソン・ドクトリンと呼ばれ、ベトナム、韓国、台湾から多くの兵員を引き揚げ、さらに、台湾に配置していた核兵器を撤去するなど台湾付近の軍事プレゼンスを削減した。

 この軍事プレゼンス削減とともに、毛沢東時代の中国との接近が図られた。ニクソンとその国家安全保障問題補佐官であるキッシンジャーは、中国との接近により、ソ連からより協調的な対応を引き出し、戦争の可能性を低減させ、それに応じてアジアにおける防衛コミットメントをさらに削減することを可能にすることで、冷戦におけるパワーバランスを有利なものとする計算であった。

 こうした動きに対し、アジアの同盟国は大きな警戒感を持った。ニクソンはいずれの同盟条約も破棄せず、米国の核の傘を維持することを約束したが、保護提供者としての米国への信頼は大きく揺らいだ。

 台湾は中国が64年に核実験を行って以来、核開発のための基礎作業に着手していたが、ニクソン政権の時期、核開発努力を加速させた。ニクソンの政策によって、韓国も核兵器計画を開始した。台湾、韓国の核開発の動きを最終的に止めたのは、レーガン政権時の働きかけであった。


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