2026年6月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年6月16日

 フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのエドワード・ルースが、5月26日付けの論説で、「プーチンもトランプもカードを持っていない。ロシアと米国がそれぞれウクライナとイランで始めた戦争は地政学的自害の研究事例になる」と述べている。主要点は次の通り。

(sarawuth702/gettyimages・ZUMA Press/アフロ・vids)

 プーチン、トランプ両者とも、弱いと見た敵に戦争を仕掛け、数日以内に勝利できると当然視したが、退陣後何年にもわたり続く負担を自国に背負わせることになっている。強力な手札を無駄にした事例として、プーチンとトランプに並ぶ者はいない。彼らが落としたカードを拾い集めているのが中国であり、中国が最大の受益者である。

 どちらの戦争も「選択の戦争」だった。目的と結果のギャップは、トランプにとってのペルシャ湾も、プーチンにとってのドンバスも同じ位大きい。

 両者とも、自ら作り出した罠から逃れることができない。プーチンにとり、「特別軍事作戦」の失敗は政権の存亡に関わる問題だ。現実を認めれば職だけでなく、恐らく命さえ失うことになるために、現実を認める可能性は低い。

 トランプにとり、心理的障壁は、自尊心と政治にある。彼が繰り返し「壊滅させた」と主張してきたイラン政権と妥協しなければならない屈辱は隠しようがない。その結果、彼は却ってイランの政権の支配力を強固にすることになっている。

 カードの一部は、今やウクライナのゼレンスキーの手元に転がり込んでいる。ウクライナは、戦線を巨大な殺戮の場に変えた。ロシア軍の死傷者は、毎月3万5000人に達している。

 さらにウクライナはロシア領内1000キロ奥深くにある石油施設、工場、重要インフラを自由に攻撃できる。戦死者の数と経済的負担は、すべてのロシア人におよび、プーチンの権力基盤を脅かしている。

 ウクライナは、トランプに対し益々強力なカードを持つようになっている。イランも、それ程遅れてはいない。高価なロシア製ミサイルを、自国製の極めて安価な迎撃システムで撃墜するウクライナの能力は、戦争の経済学を一変した。

 イランは、ドローン活用によりホルムズ海峡封鎖の能力を示した。軍事的威信のための巨額の資金投入は、益々無駄に見える。空母は、巨大な「浮かぶ白象」へと変わりつつある。トランプから「お前にはカードがない」と言われたゼレンスキーが、「技術革新のカードの束」を手にしている。

 幾つもの思想学派が信用を失っている。その一つに、米政治の両極端に見られる「北大西洋条約機構(NATO)は米によるロシア包囲網だ」という考え方がある。今は如何なる世界観を持つ人々にとっても厳しい時代だ。


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