世界史を振り返れば、パクスが永続しないことは一目瞭然だ。古くは、地中海を内海としつつ欧州の大部分を支配して「パクス・ロマーナ(Pax Romana)」を構築したあの偉大なローマ帝国でさえ、約200年間(紀元前27~180年)覇権を担ったあと、長い衰退期を経てついに消滅した。それから数世紀、無数の地域的なパクスを経て、初めて「日の沈まない大帝国」が登場した。それが、「パクス・イベリカ(Pax Iberica)」である。
スペイン帝国の原点は、コロンブスが新大陸への航路を開いた1492年とされるのが一般的である。その後、スペインは1521年にアステカ帝国を滅ぼし、さらには30年代にインカ帝国を滅ぼして、中南米の覇者としての地位を確立した。
これら新領地の莫大な富を手にしたことで帝国の力は一気に増し、16世紀半ばまでには四つの大陸に領地を持ちながら、大西洋と太平洋の双方に貿易航路を確保するに至った。とりわけ、フェリペ2世が統治した56年からスペインは覇権国として台頭し、スペインとポルトガルによるイベリア連合が成立した80年を契機に、唯一無二の帝国として絶大な影響力を発揮した。
だが、その偉大なスペイン帝国もやがて覇権を喪失した。巨大な帝国の維持に莫大な費用を要したことに加え、八十年戦争(1568~1648年)と三十年戦争(1618~48年)でスペイン帝国は徐々に消耗し、さらには1640年のイベリア連合の崩壊とスペイン継承戦争(1701~14年)を経て、覇権国として斜陽期に入った。最終的に決定打となったのがナポレオン戦争(1808~14年)であり、この時はスペイン自体が侵略された。
こうして一気に影響力を失った結果、中南米の植民地は1820年代に次々に独立していった。このスペインによる覇権に挑んだのが、欧州における新興勢力である英仏蘭であり、これら三カ国がスペインに挑んだ時代こそが、近現代史における最初の「覇権挑戦期」である。
