パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配してきたイスラム組織ハマスは7月6日、自ら運営してきた事実上の政府組織を解散し、行政権限を実務者組織に移譲すると公式に発表した。ドナルド・トランプ米政権が主導した和平計画に基づき、パレスチナ人の専門家らで構成される「ガザ行政国家委員会(NCAG)」に道を譲る姿勢を強調している。しかし、和平プロセスの最大の争点である「武装解除」については言及を避けており、ガザ再建を阻む障壁となっている。その一方で、イスラエル軍は停戦合意後もガザへの攻撃を続け、軍撤退の気配も一向に見えてこず、ガザ復興への道筋は混沌としたままだ。
指導権争いの「デッドロック」と組織の機能不全
ハマスが今回の「解散発表」という歴史的なカードを切った背景には、もはや自力のみではガザを統治し続ける体力が組織に残されていないという切実な現実も垣間見える。2年に及ぶ戦争により、ヤヒヤ・シンワル氏、イスマイル・ハニヤ氏など指導部の多くをイスラエル軍による攻撃で失い、組織の司令系統は壊滅的な打撃を受けた。
さらに深刻なのが、指導部不在に伴う組織内部の深刻な分裂だ。外交専門誌フォーリン・アフェアーズでは、イランとの緊密な関係と武力対決の継続を重視するハリル・アル・ハイヤ氏と、スンニ派諸国からの支援とイスラエルとの現実的な交渉を望むハーレド・マシャル氏の間で、指導権を巡る「デッドロック(行き詰まり)」が発生しているとも指摘されている。
この分裂により、組織としての統一した意思決定は困難だ。その証拠に、2026年2月に米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始した際、ハマスは内部合意ができず数週間にわたり沈黙を守った。最終的に発せられたシグナルも、イランに近隣諸国に対する標的の自制を求める声と、イランの戦争努力を称賛する矛盾した二重の声明が混在する事態となった。
ハマスの行政能力喪失は、財政面でもより顕著に現れている。かつて年間約3億6000万ドルに達していたともされるカタールからの資金援助が途絶え、組織は事実上の破産状態にあるとされる。現在、ハマスは約4万9000人の職員への給与支払いですら滞っており、組織を維持するために、救援物資を販売する商人から最大30%の税を徴収し、民間企業からも高額な徴収を行っている。
物価が戦前の数倍に跳ね上がっているなか、ガザにおける民衆不満は頂点に達しており、行政責任をNCAGに移譲することは、自らの統治不能な現状を回避し、210万人以上の市民の生存責任を国際社会へ転嫁するための生存戦略としての側面も浮かび上がる。ハマス当局は、解散に伴い「サービス提供に従事するすべての職員は『国家職員』であり、NCAGの下で働く準備ができている」と述べている。これは、ハマス任命の公務員を新組織にスライドさせることで、実質的な支配力を維持する狙いがあると指摘されている。
「武力保持」と影響力温存を狙う政治的策略
一方で、今回の発表において、和平プロセスの核心である「武装解除」にはハマスから一切の言及がなかった。イスラエルのギドン・サール外相は、これに対して「自らの武装解除を回避するために設計されたトリック(策略)」であると断じ「ハマスが武器を保持する限り、どんな文民政府であれハマスの指示通りに動くことは明らかだ」とした上で、ハマスがレバノンの“ヒズボラ・モデル”をガザで再現しようとしていると指摘した。
すなわち、ゴミ収集や公共サービスなどの行政責任のみを実務者政府に担わせて国際社会の批判を交わす一方で、ハマスがカッサム旅団などの軍事力を引き続き保持し、ガザにおける「支配的な軍事力」として実質的な統制権を握り続ける構図だ。また、ガザの復興を担う平和評議会も、「評価は約束ではなく行動に基づく」との声明を出すなど、これが大きな進展に結びつくだろうという大きな期待は今のところ見えてこない。
停戦合意の第二段階で求められている「武装解除」という難題を棚上げにしたまま、統治の表面的な看板の掛け替えに止まるならば、国際社会に対してハマスが和平に協力的であるというポーズを示すための、いわば情報戦の一環となる節も否定出来ない。その意味では、国際社会からの非難が高まり続けるイスラエルよりも、ハマスが世論の同情を取り付ける巧妙な戦略を強かに取っているようにも見える。
