2026年8月5日(水)

Wedge REPORT

2026年8月5日

 医療制度は、「使うまで知らない」仕組みの一つだ。日本では国民皆保険制度が当たり前のように存在し、多くの人は、自ら患者になるまで医療制度を意識することなく暮らしている。

誰が負担するかではなく、どう支え続けるか。日本の医療制度はいま、その転換点に立っている(MOHAMAD FAIZAL BIN RAMLI/GETTYIMAGES)

 その一つである高額療養費制度を巡り、2026年8月から自己負担上限額の見直しが始まる。政府は24年12月、患者負担を引き上げる見直し案を打ち出したものの、がん患者団体などから強い反発を受け、石破茂政権で一旦凍結。その後、修正を経て今回の制度改正に至った。

 一制度の見直しがこれほど大きな社会的議論を呼んだのは、それだけ高額療養費制度が、患者の命と生活を支える「最後の砦」となっていることの裏返しでもある。小誌記者も今年、ある病気が見つかって入院し、そのことを痛感した一人だ。

 しかし、一連の議論を見ていて、ある違和感が残った。報道や国会で繰り返された議論が、「患者負担を増やすべきか否か」に集中していたからである。もちろん、患者にとって自己負担額は切実な問題だが、その議論だけでは、日本の医療が抱える本質的な課題は見えてこない。

 政府が高額療養費制度の見直しを進めた背景には、膨らみ続ける医療費がある。高齢化の進展に加え、高額な抗がん剤や遺伝子治療など新たな医療技術が次々と保険適用されていることも大きい。患者にとって医療技術の進歩は希望である一方、保険財政にとっては避けて通れない課題となっている。

 日本総合研究所調査部主任研究員の成瀬道紀氏によれば、国民医療費に占める高額療養費の割合は、10年度の5.3%から22年度には6.4%へと上昇しており、同期間に国民医療費は約37兆円から約47兆円へ約1.3倍となった一方、高額療養費は約2兆円から約3兆円へ約1.5倍と、それを上回るペースで増加している。

 数字だけを見れば、「患者負担を引き上げなければ制度は維持できない」と考えたくなる。しかし、成瀬氏は、「制度創設時と比べ、医療を取り巻く環境は大きく変化した。本来誰をどのように支える制度なのかという視点から、制度全体を再設計することが必要である」と話す。

 実際、高額療養費制度には現在の医療とのずれも少なくない。自己負担額は月単位で管理されるため、入院や治療が月をまたぐだけで患者負担が変わるケースもある。また、制度創設当時には想定されていなかった高額薬剤や外来治療も増えている。医療の変化に対し、制度が追いついていない現状が浮かび上がる。

 ただし、高額療養費制度は、公的医療保険制度を〝支える〟仕組みでもある。日本医療政策機構シニアマネージャーの坂元晴香氏は、「高額療養費制度は最も保険の原則に則った制度である」と話す。


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