お客様からのご意見や苦情には、できる限り丁寧に対応するよう社員に伝えてきました。しかし最近、長時間の拘束や暴言、過剰な要求などへの対応で社員が疲弊するケースが増えています。とはいえ、対応を断れば「お客様を大切にしていない」と受け取られそうで不安です。どこまでお客様の要望に応え、どこから線を引くべきなのでしょうか。
2026年10月1日、日本企業の「お客様対応」の常識が一つ変わった。改正労働施策総合推進法の施行により、企業にはカスタマーハラスメントを防止するための措置が義務づけられる。これまで現場の経験や我慢に委ねられがちだった問題に、会社として向き合わなければならなくなる。
義務化で企業に求められるのは、方針の明確化、相談体制の整備、発生時の迅速な事実確認と被害者への配慮、再発防止などである。つまり「現場でうまく対応せよ」ではなく、経営として事前に備えることが求められる。ここに今回の法改正の意味がある。
カスハラという言葉は、すでに珍しくない。大声で怒鳴る、何度説明しても同じ要求を繰り返す、長時間電話を切らせない、土下座を迫る、従業員個人をSNSで中傷する――。だが、この問題を「困った客が増えた」という話だけで終わらせてはいけない。
厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査(令和5年度)」によると、全国約8000の企業・団体のうち、過去3年間に労働者から「顧客等からの著しい迷惑行為」に関する相談があったと答えたのは27.9%で、令和2年度調査より8.4ポイント増えた。具体的な行為では「継続的な、執拗な言動」が72.1%で最も多く、「威圧的な言動」52.2%、「精神的な攻撃」44.7%と続く。被害として「通常業務の遂行への悪影響」63.4%、「労働者の意欲・エンゲージメントの低下」61.3%も挙げられている。
従業員が疲弊し、退職し、残った社員の負担が増えれば、やがて商品やサービスの質が落ちる。カスハラは接客担当者だけの問題ではなく、経営問題なのである。
しかし、経営者には「お客様の声を聞くことは商売の基本ではないか」という別の迷いもある。その通りである。だからこそ難しい。
問題は「苦情を受けない会社」をつくることではない。正当な苦情と働く人を傷つける不当な要求をどう見分けるか、そしてその線引きを現場の一人に背負わせないことである。

