JALは「安全・安心」の問題として考える
日本航空(JAL)の取り組みも象徴的だ。JALグループはカスタマーハラスメント基本方針で、顧客の意見や指摘には真摯に耳を傾け、誠実に対応すると明記する一方、暴言・暴行など著しい迷惑行為については、社員の安全を守るために行動するとしている。
判断基準も具体的で、暴言、大声、侮辱、脅威を感じさせる言動、過剰な要求、暴行、長時間拘束、同じ苦情の繰り返し、業務スペースへの立ち入り、SNSによる信用毀損などを挙げる。必要に応じて警察や弁護士と連携し、機内や空港で証拠保全のため録音・録画を行う場合もある。状況によっては搭乗・利用を断ったり、誓約書の提出を求めたりすることも明示している。
一見すれば厳しい。だが、一人への対応でスタッフが長時間拘束されれば、ほかの顧客へのサービスに影響する。
機内で威圧的な言動が続けば、周囲の乗客の安心まで損なう。航空会社なら安全への影響も看過できない。一人の要求を際限なく受け入れることが、多くの顧客を大切にすることになるとは限らないのである。
本当のお客様第一とは何か
カスハラ対策が義務化されると聞けば、「マニュアルをつくらなければ」「相談窓口を設けなければ」と考えるだろう。それらは必要だ。しかし制度対応だけで終わらせてはもったいない。10月1日を機に考えるべきなのは、自社にとって「お客様第一」とは何かという根本的な問いである。
お客様の要求を可能な限りかなえることなのか。言われたことを断らないことなのか。それとも、良い商品と良いサービスを長く安定して提供し続けることなのか。
後者なら、働く人を守ることも顧客第一の一部になる。疲弊した社員に良い接客はできない。暴言に耐え続けることを「接客力」と呼ぶこともできない。
高島屋の「自他の利益を図るべし」という創業の精神を現代の商いに読み替えれば、顧客だけでも、企業だけでも、従業員だけでもない。関わる人が持続的に良い関係を築ける状態をつくることが、商いを続ける条件になる。
正当な声には誠実に応える。不当な要求には毅然と線を引く。そして、その判断を現場の一人に押しつけない。
お客様第一とは、お客様の言うことを何でも聞くことではない。働く人を守り、良い商品と良いサービスを顧客へ届け続けること。カスハラ対策義務化は、日本の商いが「お客様第一」という言葉の意味を、もう一度考え直す機会なのである。
働く人を守ることは矛盾しない
守るべき一線があるからこそ
良いサービスは続いていく

