その一方で、日本の病院経営に横たわる構造的な問題も指摘する。
「医療機関には『経営の素人』しかいないことが問題だ。外部理事や評議員がいても、〝仲間内〟で構成されることが多く、企業のようなガバナンスが働きにくい。患者の利便性や経営効率よりも、従来の仕組みを維持することが優先されがちである。医療は公共性が高い分野だからこそ、権力は正しく行使し、透明性の高い経営を実現することが重要である」(渡邊氏)
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授の平田竹男氏は、病院経営の発想そのものを転換すべきだと提言する。
「医療法人は非営利であるべきである。しかし、それは診療報酬だけで経営しなければならないという意味ではない。医療行為で利益を追求することは認められないが、それ以外の収益源まで否定する必要はない」
平田氏が例に挙げるのが、ネーミングライツを活用した新たな財源である。ネーミングライツとは、スポーツ施設や文化施設などの名称に企業名を冠する権利を販売し、施設の維持管理費などに充てる仕組みである。「ベルーナドーム」や「日産スタジアム」のように一般的となったこの手法を、病院施設にも応用できないかと平田氏は提案する。現在、国内では熊本大学病院が院内プロムナード(遊歩道)などに企業名を冠する取り組みをしているが、医療機関にはまだなじみがない。
「スポーツ界では、ネーミングライツやスポンサー契約は当たり前の仕組みである。医療界でも、患者の理解が得られる範囲であれば、院内施設や白衣へのロゴ掲出、さらには病棟そのものへのネーミングライツなどを議論してもよいのではないか。アメリカのように寄付税制の拡充も含め、従来の常識にとらわれない発想を取り入れるべきだ」(平田氏)
社会全体が「医療」の
当事者である自覚を
税金を増やすのか、患者負担を増やすのか。その二択だけで日本の医療を支えようとすれば、いずれ限界が訪れる。医療を取り巻く環境が刻一刻と変化する中、制度の維持には、病院が自ら新たな価値を生み出し、多様な財源を確保できる環境を整えることも必要だろう。まずは診療報酬制度依存からの脱却である。
これに加え、前出の伊藤氏は患者側の意識改革も重要だと指摘する。
「制度や医療機関の改革が進んでも、医療を利用する側に『高額だから良い』『最新だから良い』という意識が残れば、限られた医療資源を効率的に配分することはできない。本当に必要な医療を適切に受けるという視点を社会全体で共有することが重要である」
高額療養費制度を巡る議論は、「患者負担増」という言葉が独り歩きした。しかし、その先に見えたのは日本医療全体の構造的な課題である。
限られた医療資源をどう配分し、どのような医療を将来世代へ引き継いでいくのか。その答えは、高額療養費制度だけを見直しても導き出せない。制度、医療提供体制、病院経営、そして患者自身の意識──。それぞれを見直して初めて、日本の医療は持続可能なものとなる。
高額療養費制度は、その議論の入り口に過ぎない。日本の医療制度を持続可能とするために求められているのは、制度の一部を繕う「弥縫策」ではなく、医療制度そのものを見直す「根治療法」である。

