ドラマ界はいま、女性脚本家の時代である。「女流」という潮流は映像界では脈々と流れる水脈。橋田壽賀子(1925~2021年)や向田邦子(1929~81年)をあげるまでもない。大石静や中園ミホ、野木亜紀子らに若手、中堅がいまの時代をとらえた優れた作品が、今季ドラマの中で異彩を放っている。
社会の「いま」を描く巧みさ
『お前はただの現在にすぎない テレビになにが可能か』(1969年)は、TBSから独立して日本初の制作プロダクション「テレビマンユニオン」を立ち上げた、今野勉と萩元晴彦、村木良彦の共著である。映像界を目指す若者たちにとって、いまもバイブルになっている。
「いま」を切り取って提示するメディアが、テレビである。橋田壽賀子の代表作である『渡る世間は鬼ばかり』や、向田邦子の『阿修羅のごとく』の昭和という時代の家族関係とは、社会の「いま」はかなり様相を異としている。
それは「非婚社会」であり、核家族すら超えた「おひとりさま」といった、月並みな表現では及ばない「格差社会」「最貧困女子」……の時代である。もちろん、男性脚本家も現代社会の問題に切り込んでいる。ただ、ドラマのヒロインを描くことにかけて、女性脚本家が皮膚感覚として巧みであるように感じる。
若手のトップを走っていると筆者が考える、生方美久(うぶかた・みく、1993年生まれ)は「フジテレビヤングシナリオ大賞」の受賞をきっかとして、フジ系の名作ドラマの脚本を手がけてきた。
『silent』(2022年)では、目黒蓮が難聴の病が進むにつれて恋人の川口春奈と別れるが、ふたりはお互いに気持ちを寄せ合う、恋愛ドラマの傑作だった。『いちばん好きな花』(23年)を経て、再び目黒蓮を主役にすえた『海のはじまり』(24年)においては、学生時代の恋人の古川琴音が妊娠を隠して実家にもどって出産後に亡くなり、自分の幼い娘を育てる。
俳優は、脚本と演出家との出会いがその後の運命を決める。目黒蓮も古川琴音も生方美久によって、スターダムに押し出された。
一連の脚本は刊行されている。筆者も『silent』と『海のはじまり』を書架の片隅に置いている。小説家でもあった、向田邦子は「向田文学」といわれて、いまもファンが多い。テレビドラマの脚本が刊行されたのは、もちろん生方美久がはじめてではないが、「生方文学」の域に達していると思う。
