「生方文学」に新たな一頁『Tシャツが乾くまで』
『Tシャツが乾くまで』(TBS、毎週金曜よる10時)は、「生方文学」に新たな一頁を刻む。これまでの恋愛ドラマとは一転して、サスペンスである。
信州に向かっていた高速バスが谷底に転落する事故が起きる。結婚情報誌の編集者として働いている、瀬尾咲子(蒼井優)の夫で喫茶店を営む充(みつる、松山ケンイチ)と、近所のマンションに住んでいる会社員の園田樹生(そのだ・いつき、中島歩)の妻で、古書店で働くあずさ(夏帆)が事故に巻き込まれる。
園田の妻・あずさは遺体が発見される。瀬尾の夫・充の遺体は見つからないままに捜索は中止になる。バスの乗客がスマホで撮影した動画の中で、あずさと充が隣同士で座って親しそうに話す映像が残されていた。一方、警察の捜査によって、バスの乗降口を移すカメラに充は確かに乗り込むところは写っていたが、バスが出発する前に降りているシーンもあった。
充は、事故死ではなく失踪、と警察は判断した。しかも、充は事故後に妻の咲子への連絡を絶っている。
タイトルの『Tシャツが乾くまで』は、瀬尾と園田の自宅のそばにある、コインランドリーがひとつの舞台になっている。ドラマはまずタイトルがチャンネルを決めるといってもいい。
園田樹生(中島歩)と、瀬尾咲子(蒼井優)がたまたま、そのコインランドリーで出合う。お互いにバス事故の犠牲者同士ということで面識があった。園田は息子の翔(しょう、久保田薫)と二人分の洗濯物を抱えてきた。咲子は、自宅の洗濯機の調子が悪くなったからだった。
とりとめのない話をした後に、咲子が帰る際に園田が咲子に向かって言う。
「あなたの旦那さんは、うちの妻と不倫をしていました」と。
園田の妻・あずさと咲子の夫・充がコインランドリーで親しげに話しているのを、園田が目にしていたのだった。しかも、あずさは夫の園田に行先も告げずに、信州を目指していた。
咲子にとっては、驚きしかない「不倫」という言葉だった。しかも、園田と同じように夫の充がなぜ信州に行こうとしていたのか、告げられていなかった。
あえて「生方文学」と呼んだ、彼女の脚本は舞台設定と美しいセリフが胸を打つのである。
園田(中島)と咲子(蒼井)は、近所やコインランドリーでお互いのパートナーについて、話し合ううちに距離が縮まっていく。パートナーの秘密もわかってくる。園田の保育園に通う翔もすっかり、咲子になじんでいる。
園田は、子どものころに家族で水族館に遊びにいって、暗い所で迷子になり、母親から「来たいと言ったのはあんたでしょ」と、しかられたことから水族館が嫌いである。咲子は少女時代に花火大会の人ごみの中で、痴漢に遭ったのに一緒にいった少年に優しい言葉をかけてもらえなかったので、花火大会が嫌いである。
ところが、園田は、妻のあずさの残した本のページの間から2枚の水族館のチケットを見つける。かたや、咲子も充の服のポケットから大嫌いな花火大会の「カップル席」2枚のチケットを見つける。
圧巻の長まわし
本ドラマの舞台設定の魅力のひとつが、園田と亡くなった妻のあずさ(夏帆)、そして、咲子と失踪した充(松山ケンイチ)が、それぞれ夫婦同士で会話をするシーンである。
ベッドに横たわるようにして、あずさが現れて、園田に問いかける。
「翔には、わたしが死んだことをいった? まさか、夜空のお星さまになったとか……」
「いいや、ちゃんといったよ。ママは帰ってこないって」
咲子の失踪した夫・充(松山ケンイチ)は、密かに自分の喫茶店の経営を任せている、矢野直人(高橋文哉)と連絡を取り合っていた。バスの事故から1年が経ち、矢野は咲子に店の手伝いを頼み、「電話に出てくださいね」と、いいおいてバックヤードに姿を消す。
