爽太にとって、麻里子は「ヒーロー」であり、かつ守るべきひととなった。爽太は、小学校時代から麻里子を遠くからみつめて、毎日のように日記をつけている。そのことを麻里子は知らない。
上司と部下との関係とはいえ、同じ職場の中で誠実な爽太に麻里子はひかれていく。
その間に、麻里子の周辺で殺人事件が起きる。商品開発のライバル部長が何者かに殺された。現場の防犯カメラには、爽太が去っていく姿が映っていた。しかし、それは麻里子が立案した商品開発のライバルとなっていた、その部長の経理的な不正をつきつけて商品計画の競争から降りるように依頼するためだった。
ふとしたきっかけから、麻里子と知り合った警視庁捜査一課の刑事である、佐倉泰輔(玉山鉄二)は、爽太の犯行を疑う。
麻里子の父である社長の銀次郎の秘書が、突然失踪する。
麻里子は爽太に対する思いが募り仕事が終わった後に、爽太を遊園地に誘う。観覧車に乗ってはしゃいでみせる。
この直前に麻里子は、爽太に恋人がいると思ってどんな女性か聞いたばかりだった。爽太は「芯が強くて、頑張っているのに人にはそうみせず、ひたすら仕事に打ち込んでいる人です。僕の『ヒーロー』なんです」と、答えていた。
遊園地から自宅に帰る分かれ道、麻里子が坂道を登っていくのをいったんは別れた爽太が、突然方向を変えて、麻里子を追う。
「あれは、麻里子さんのことなんです。(遊園地に)一緒にいきたかったのは麻里子さんなんです。僕はずーっと……」
「わたしもあなたが好き……」
ふたりは抱き合うのだった。
脚本の渡邊真子のセリフは美しくも心にしみいる。
30歳代半ばの「いま」を描く
『Tokyo middle 30』(フジテレビ、水曜よる10)もまた、「いま」の30歳代半ばを描いた傑作である。脚本の北川亜矢子(1980年生まれ)は、中堅ともいえる存在ではあるが、現代社会の実相に迫る創作意欲は衰えをみせない。
登場人物の設定は、高校の同級生の35歳。専業主婦の佐倉麻紀(仲里依紗)、アパレル店長の山地遥(のん)と同棲生活を過ごしている小学校教諭の永野薫子(深川麻衣)の3人である。
大ヒットドラマ『東京タラレバ娘』(2017年)では、吉高由里子、榮倉奈々、大島優子が30歳の設定で、そのときの「いま」の婚活や育児の問題をとりあげて話題を呼んだ。あれから、10年近く経って、30歳代半ばの女性たちが直面する「いま」は変化を遂げている。
佐倉麻紀(仲里依紗)は、美容外科医の夫・宗司(渡辺大和)をもって恵まれた家庭を築いているかにみえるが、息子がADHD(注意欠如・多動症)を抱えていることがわかる。清水義孝(風間俊介)と同棲生活の永野薫子(深川麻衣)は突然妊娠していることがわかる。独身のアパレル店長・山地遥(のん)は、来店した起業家の藤井晃之助(朝井大智)と恋に落ちる予感に包まれている。
脚本の北川亜矢子は、3人の深刻な事態に焦点を当てつつも、周辺の人物たちとのユーモラスな日常を描いている。
起用された女優3人は、誰でも主役を張れる日本を代表する女優陣である。男優陣もまた。ドラマの展開が楽しみな一作である。
日本のドラマを支えてきていた
女性脚本家――優れたドラマの脚本家に与えられる「向田邦子賞」(東京ニュース通信社主催=「週刊TVガイド」発行元)を第1回(1982年度)から第44回(25年度)までの受賞者を見る。大石静、北川悦吏子、岡田惠和、大森美香、井上由美子、森下桂子、兵藤るり…ら、男性脚本家に負けていない。
戦後の映画黄金期を脚本で支えた、田中澄江や水木洋子、そして市川崑監督の妻にして和田夏十(わだ・なっと)の筆名で市川作品の共同制作者ともいえる、市川由美子。なにも、彼女らにさかのぼらなくてもいいのだろう。
戦前の女性作家たちの群像。そして、日本文学を切り拓いたのは、紫式部や、清少納言らの宮中の女性たちであり、そのときの「いま」を描いていたのである。
