ドラマが視聴者の心を打つのは、愛であったり、サスペンスの物語だったりするのはいうまでもない。「社会派ドラマ」とかつてはいわれた、現代の問題を正面からえぐりだす物語もあった。最近のヒットドラマの伏流水として、批判精神があると考える。あえて社会派と銘打たなくとも、ドラマは主張する。
反・ワクチンへの静かな怒り
大ヒットドラマ「海のはじまり」(フジテレビ系)は最終回(9月23日)となった。亡き元恋人・南雲水季(古川琴音)との間に生まれた娘・海(泉谷星奈)を育てることになった、月岡夏(目黒蓮)がさまざまな人間関係の綾を解きほぐしながら、周囲の人々を頼る道を見つけ出して娘とともに歩む明るい未来を予感させるフィナーレだった。ドラマ史上に輝く傑作だった。
このドラマの伏流水は、水季(古川)の死因が子宮頸がんだったことにある。子宮頸がんワクチンは世界で普及していたにもかかわらず、ワクチンを打った若い女性のなかから体調不良を起こしたケースがあったことから、朝日新聞がまず“薬害”のキャンペーンを張った。これにNHKや他の新聞のなかにも追随するメディアが相次いだ。
この結果は、厚生労働省が一時、子宮頸がんワクチンの接種の奨励をやめたのだった。これに対して、医師にしてジャーナリストの村中璃子さんが、「Wedge」「旧・WEDGE Infinity(現・Wedge ONLINE)」「新潮45」などを通じて反・子宮頸がんワクチンが誤りであることを繰り返し指摘した。
村中さんがそれらの媒体における執筆記事をまとめたのが『10万個の子宮』(平凡社、2018年)である。日本の子宮頸がんの患者は年間に1万人、そのうち3000人が亡くなっている。10年間なら10万個の子宮に影響を与える。