2024年11月22日(金)

田部康喜のTV読本

2024年9月28日

 こうした村中さんの活動に対して、科学誌「ネイチャー」などが主催する「ジョン・マドックス賞」が2017年11月30日に与えられた。この賞は同誌の編集長を25年にわたって務めたマドックス氏を記念するもので「困難や敵意に遭いながらも、公共の利益のためにサイエンスを世界に広めた人物」を顕彰するものだ。この賞がひとつの要因ともなって、厚生労働省は子宮頸がんワクチンの接種を広く周知するようになったが、かつての反ワクチンの報道の影響によって接種率はいまも高くはない。

 「海のはじまり」の脚本家である生方美久さんは、群馬大学医学部保健学科看護学を卒業後は、助産婦や看護婦の経験がある。ドラマのヒロイン・水季の死因を子宮頸がんとしたことには、生方さんの反・ワクチンに対する怒りが声高ではなく静かに描かれている。

 夏(目黒)と交際している百瀬弥生(有村架純)が、勤め先の化粧品メーカーの開発部の後輩に対して、「(女性のガンなどの)検診はしっかりと受けなさいよ」と諭すシーンがある。

振り返るべき「原爆裁判」

 NHK・朝のテレビ小説「虎に翼」のヒットもまた、伏流水として流れる批判精神にある。朝ドラは、ひとりの少女が成長する物語が定番である。日本初の女性判事となった三淵嘉子をモデルにしているドラマは、これまでにない職種であったことから当初は観ていて戸惑いもあった。しかし、物語が進むにつれて主人公の佐田寅子(さだ・ともこ、伊藤沙莉)が手がけた裁判のみならず、彼女が裁判官として務めた期間に司法が直面した問題や判決がいまにもつながっていることに驚くとともに、感銘を禁じえなかった。

 朝ドラの歴史に残るこのドラマも最終週「虎に翼」(9月23日~27日)で幕となった。東日本大震災を背景として青春を描いた「あまちゃん」(2013年度前期、脚本・宮藤官九郎)の大ヒット後、後続の朝ドラが視聴率に苦戦したことを思い出す。次回作「おむすび」(9月30日から)に期待したいところである。

 法学徒として弁護士を目指したこともある筆者にとって、大学の講義のなかで学んだ忘れがたい判例の数々がドラマに取り上げられている。

 そのひとつがいわゆる「原爆裁判」である。東京地裁において、広島と長崎の被爆者5人が国を相手取って損害賠償を求めた民事訴訟である。

 裁判は1955年4月から1963年12月までで、9回の口頭弁論が開かれた。佐田寅子のモデルである、三淵嘉子だけが右陪席(次席裁判官)としてただひとり最初から最後まで裁判席にあった。(以下は『原爆裁判』山我浩著を参照した)。

『原爆裁判―アメリカの大罪を裁いた三淵嘉子』山我 浩 (著)

 1963年12月7日の判決の要旨は以下である。

 「広島市、長崎市に対する原子爆弾による爆撃は、無防備都市に対する無差別攻撃として、当時の国際法から見ても明らかな違反である」

 「国家は自らの権限と自らの責任において開始した戦争により、国民の多くの人々を死に導き、障害を負わせ、不安な生活に追い込んで甚大な被害を与えた。十分な救済策を執るべきである」

 世界で初めて原子爆弾の投下について「国際法違反」の判断をくだした。「無防備都市」つまり軍事的な拠点となっていた都市ではなかった、という言葉はいまも心に残っている。判決は、原告の被爆者の敗訴つまり国による賠償を認めなかったが、その後立法によって被爆者援護法などの整備につながった。

 2024年9月9日、長崎地裁の「被爆体験者」に対する判決は「原爆裁判」によって、被災者の救済が図られるようになったものの、引き続き問題があったことを明らかにしている。


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