
米CBSニュースと調査会社ユーガブの全国世論調査(2025年3月27~28日実施)によれば、64%が「トランプ政権は物価を下げることに重点的に取り組んでいない」と回答した一方、55%が「トランプ政権は関税を課すことに重点を置きすぎている」と答えた。
この調査結果を気にかけないのか、敢えて強気に出たのか、ドナルド・トランプ米大統領(以下、初出以外敬称および官職名等略)は、ホワイトハウスのローズガーデンで2025年4月2日(現地時間)を「解放記念日」と呼び、相互関税と一律関税を組み合わせた新たな関税政策を発表した。本当に4月2日は、米国にとって「解放記念日」となるのか、それとも「自由貿易のルールが大きく後退した日」として米国民および世界の人々に記憶されるのか。あるいは最終的に「世界の自由貿易破壊の日」となるのか。
以下では、トランプ関税政策発表を、見せ方やメッセージ性を含めて、コミュニケーションの視点からみていこう。
計算つくした「見せ方」
まず、トランプが相互関税と一律関税を発表した時間に注目してみよう。トランプは米東部時間午後4時に設定した。この時間設定は意図的だ。ニューヨーク市場が閉まってから関税政策を明かし、市場への影響を小さくしたいと考えたからだろう。
次に、見せ方である。ハワード・ラトニック商務長官から手渡しされたパネルを掲げて相互関税を発表し、ビジュアルに訴えた。会場でそれを見ていた中には、ローズガーデンに招待された労働者が含まれている。彼らはスーツを着用せずに、ヘルメットと作業着という姿であった。
2月28日、ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領がホワイトハウスを訪問し会談を行ったが、トランプと口論になり決裂に終わったことは記憶に新しい。その際、ゼレンスキーがスーツを着用せずに、軍服を着ていたことが問題になった。トランプを応援する極右の新興メディア「リアル・アメリカズ・ボイス(本当のアメリカの声)」のホワイトハウス担当のブライアン・グレン記者が、ゼレンスキーに向かって、スーツを着用しない理由を聞いた。グレンは、ゼレンスキーがトランプやホワイトハウスおよび米国民に対して敬意を払っていないという含みを持たせた。
しかし、今回はホワイトハウスが労働者にヘルメットを被り、作業着で出席するようにリクエストしたのだろう。演説を視聴する米国民に労働者の存在を認識させる意図があったことは間違いない。
では、ホワイトハウスは、労働者を通じてどのようなメッセージを送ったのか。
ホワイトハウスは、労働者を演説の場に招くことにより、「相互関税と一律関税が彼らを守る」というメッセージを発信した。トランプは、日本や中国など特定の国からの輸入品に対して相互関税、それ以外の国や地域からの輸入品には一律10%の関税、全ての国の自動車に25%の関税をそれぞれ課すと発表し、演説で「米国を再び豊かにする(Make America Wealthy Again)」と強調した。このフレーズには、支持基盤である労働者の生活を向上させるという意味が含まれている。