2025年12月6日(土)

トランプ2.0

2025年4月5日

労働者にアピールした「隠された意図」

 見せ方に関してもう1点指摘しておこう。トランプは、演説の途中で自動車会社を退職した労働者を登壇させて演説をさせた。それほど、労働者に強くアピールしたかったのだ。

 その背景には一体何があるのか。3つの要素――超富裕層の実業家イーロン・マスク氏、来年秋の中間選挙および民主党があるとみてよい。米ニュースサイト「ポリティコ」が、マスクがトランプ政権を去り、ビジネスに戻る可能性があると報道したが、2024年の大統領選挙後半からトランプとマスクの蜜月関係は顕著になり、政権発足後「共同大統領」とまで言われるようになっている。トランプは他にも大手IT企業の超富裕層とも良好な関係を持っている。

 そこで、野党民主党は来年の中間選挙で「超富裕層対労働者」という対立構図を描く戦略に踏み出た。民主党は、トランプとトランプ政権は超富裕層の影響を強く受けているというメッセージを送り、労働者をケアするのは民主党であると訴えている。トランプはそれを警戒し、超富裕層からの政治献金に期待しながらも、同時に労働者をつなぎとめていくことを考えている。

「親切な相互関税」

 トランプの今回の演説のキーワードは、「親切な相互関税」である。なぜ「親切」なのか。

 彼はパネルを使って、日本や欧州連合(EU)などが米国からの輸入品に課す平均の関税率を説明した。例えば、日本は米国からの輸入品に平均で46%の関税をかけていると指摘した。

 これに対して、トランプは日本からの輸入品に46%ではなく、24%の相互関税をかけると発表した。「46%対46%」の「完全な相互関税」ではなく、「46%対24%」はトランプが掲げたパネルに明記されていたように、「ディスカウントされた相互関税」、即ち、「部分的な相互関税」であり、トランプ政権は妥協したという意味である。

 その背景には、完全な相互関税に踏み切った場合の市場への影響に配慮があったのではないかと考える。また、政権内で相互関税率に関して意見が分かれたのかもしれない。

 「親切な相互関税」は、今後ディスカウントのない「不親切な相互関税」に変わる余地があり、トランプはそれをディール(取引)の材料として各国と交渉を進めていくことになるだろう。

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