2026年8月21日(金)

WEDGE REPORT

2026年8月21日

 8月16日から17日にかけて、トランプ大統領の娘婿・ジャレッド・クシュナー氏が中東を訪れた。ハマスの新指導者ハリル・アル=ハイヤ氏ら代表団と約2時間に渡り直接会談を行ったのち、翌17日にはエルサレムでイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談を実施した。かつては、ハマスをテロ組織に指定している米国側が、イスラム組織ハマスの指導部と直接接触することは国際外交においてタブーであったとされる。しかし、現在のトランプ政権下において「ハマスとの直接交渉」は、今やプロセスの一部として「ニュー・ノーマル(新しい常態)」になりつつあるとの指摘が相次いでいる。

交渉中にもイスラエルからガザへの攻撃が行われた(REUTERS/Mahmoud Issa (Palestine)/aflo)

外交の舞台裏で定着するハマスとの「直接対話」

 こうした動きは、2025年3月にアダム・ボーラー人質問題特使がハマス高官と極秘に会談していたことが発覚したことから始まった。当時、イスラエル政府は反発し、国際社会でも議論が起きたことに比べると、今回は「異例」の会談として報じられてはいるものの、もはやハマスを外交のカウンターパートとして扱うことが常態化しているようにも見える。こうした事態について、タイムズ・オブ・イスラエル紙のアメリカ総局長ジェイコブ・マジド氏は「トランプ政権はこの1年間にこうした会談を数多く重ねてきたため、これらの会談をかなり”定着(ノーマライズ)”させたと言えると思う。ハマスの指導者たちとのこうした種類の会談に対して、イスラエル側が渋々ながらも全体的な受け入れが見られるようになったのは興味深いことだ」と指摘している。

 ハマスとの対話「定着」の背景には、2025年10月にクシュナー氏とスティーブ・ウィトコフ特使がハマスと直接交渉を行い、人質解放と停戦を実現させた経緯がある。ウィトコフ氏とハイヤ氏の間には、共に息子を失った経験分かち合うという個人的な絆が築かれ、それが指導者間の信頼構築に一役買ったとされる。

 一部からは、テロ組織に指定されているハマスの正当化に繋がるとの批判もあるが、和平交渉の成立を急ぎたい米国側は、こうした直接対話が現場の人々に実利をもたらしており、譲歩ではないというスタンスだ。マジド氏は、「米国は全般的に、他者が不快だとみなす指導者であっても会談を行う意欲を示してきた」としてタリバンやイランの革命防衛隊との例を挙げながら、「対処している相手と直接顔を合わせ、仲介者や他の交渉者を信頼すべきではない、そして非常に物議を醸す当事者と直接の状況で面会する役割を引き受けることが効果的であり得ると(米国は)考えている」と述べている。そして、「現時点でトランプ大統領と喧嘩をするつもりのないネタニヤフ首相の姿勢により、やや日常的になりつつあるこれらの(ハマスとの直接)会談に対する公の批判は見られなくなっている」と指摘する。

 一方、エルサレム・ポスト紙は社説で、この「ニューノーマル」が孕むリスクを指摘した。同紙は、ハマスとの直接協議が「ガザの未来からハマスを排除する」という目的に適う場合にのみ正当化されると主張している。最大の懸念は、ハマスが戦場で弱体化しながらも、ワシントンの交渉テーブルにおいては「永続的な地位」を確保して戦争から抜け出すことにあり、もしそうなれば、この和平プロセスは「イスラエルが排除するために開戦したものを、かえって維持・温存させてしまった」という戦略的失敗を意味することになると警告する。つまり、ガザの政治的未来に関する議論において「直接の座席」を有する当事者としてハマスが扱われ始めている実態が、今後どのような結果をもたらすかを注視しなければならないという指摘だ。

 ハマス側もまた、この米国との直接対話が自らに何をもたらすかを熟知している。米国が自らの要求を聞き、同意を必要としているという姿を内外に示すことで、パレスチナ人やアラブ世界に対して自らの政治的権威を誇示する機会として利用していると、識者は分析する。


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