2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年7月24日

 今、生活保護の利用者はどのような窮状に直面しているのか。そこに至る前の「セーフティーネット」を、いかに機能させることができるのか。日本が抱えている課題を現場目線で紐解く。

日本三大ドヤ街の一つである東京・山谷地区。生活保護を利用している人の割合は約9割に達するという(WEDGE)

 「誰にも頼ることができず、年金も満足に貰えず、それでも地域で暮らす高齢者が増えていくことは間違いない」。明治大学専門職大学院ガバナンス研究科教授の大山典宏氏はこう危惧する。

 団塊世代の全員が75歳以上になった今年。生活保護世帯のうち65歳以上で構成される高齢者世帯の割合は55.4%と、日本の高齢化率(29.3%)より相当に高い。

 さらに、今後10年の間で懸念されるのが、「就職氷河期世代」の高齢化だ。彼らの多くが低年金・無年金状態となり、「巨大な集団」として現れることになる。このままの状態を放置すれば、生活保護の利用者が爆発的に増えることは明らかだ。

 立命館大学産業社会学部准教授の桜井啓太氏は「生活保護の制度そのものより『外側』に問題がある。『最後のセーフティーネット』だからこそ、外側の制度不全が今、生活保護の制度に押し付けられている」と指摘する。

 桜井氏の言う「外側」にはどんな問題があるのか。それを知るにはまず、生活保護の利用者をとりまく環境について理解する必要がある。

 生活に困窮した人が行政から紹介される施設の一つに、「無料低額宿泊所(以下、無低)」がある。1990年代後半には全国に数十カ所程度の規模だったが、2022年には649カ所にまで増加している。

 無低の数が増えたのは、ITバブル崩壊後の2000年代前半からリーマンショック後の10年代にかけてのことだ。これは、ホームレス状態の人が日本全体で増加していた時期とも重なり、彼らの〝受け皿〟として無低は機能してきたといえる。

 しかし、20年に行われた厚生労働省の調査によれば、ベニヤ板などで居住空間を区切っただけの狭小な「簡易個室」が全国で2108室確認されている。同省はこれを22年度末までに解消するとしたが、その後の是正状況は今も明らかにされていない。

 埼玉県でホームレス支援を行う独立型社会福祉士事務所NPO法人ほっとポット代表理事の宮澤進氏は「国は簡易個室を営む事業者を一切容認してはならない。憲法第25条2項には『国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない』と規定されている。その責務はどこへ行ったのか」と怒りを隠さない。

 また、本来であれば無低は、生活保護の利用者がアパートなどの住居を確保するまで「一時的に」滞在する場所だが、手元にわずかな日銭しか残らないために転居の手筈が整えられず、長期にわたって入居する人もいる。

 東京・山谷地区で活動するNPO法人自立支援センターふるさとの会元代表理事の瀧脇憲氏によれば、「入居者の中には、アパートでの独り暮らしに不安を感じる人も少なくない」という。こうした利用者の実情に応えてきた社会的役割を一概に否定することはできない。

 しかし、20年の同調査によれば、入居者の半数以上が「福祉事務所からの紹介」で暮らしており、生活保護を利用する世帯にとって無低が「唯一の選択肢」になりつつある。

 そこにつけ込むように、悪質な事業者が一部存在しているのだ。彼らが搾取する高額な利用料によって税金が食いつぶされる未来は避けなければならない。


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