2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年7月24日

 日本福祉大学社会福祉学部教授の山田壮志郎氏は「これらの問題は全て、無低以外の選択肢が少ないために生じている。他に選択肢があれば、衛生環境や入居期間に問題があるような施設は選ばれず、淘汰されるはずだ。真の課題は、無低に依存し続ける体制からの脱却、そして『選択肢』を増やすことにある」と説く。

 この間、政府は何をしてきたのか。

 17年から施行している「住宅セーフティネット制度」では、高齢者など「住宅確保要配慮者」の入居を拒まないとする住宅を民間から募り、登録する仕組みを整えた。

 だが、摂南大学現代社会学部特任教授の平山洋介氏による調査によれば、登録された住宅のうち「要配慮者」のみを対象とする「専用住宅」は23年3月時点で全体のわずか0・6%しかなく、一般世帯も受け入れ対象とする「一般住宅」が大宗を占めている。平山氏は「この制度は『要配慮者』を一般世帯との競合関係に置くため、ほとんど救済することができず、家主にとっても何らメリットがなく、結局全く成果を上げていない」と指摘する。

 厚労省社会・援護局保護課保護事業室長補佐の成瀬拓氏は「今年の10月には『居住サポート住宅』という新しい区分の住宅も提供する予定だ」と話す。新たな取り組みが空洞化しないよう注視が必要だろう。

一つ手前の「網」を
いかに充実させるか

 高齢の貧困層や就職氷河期世代という「巨大な集団」が生活保護を利用する前に、手前の「網」を充実させるのは待ったなしの課題である。

 コロナ禍においては、住居を失うおそれがあった低所得層の多くが生活困窮者自立支援法に基づく「住居確保給付金」を申請し、生活保護制度上の「住宅扶助」と同等の金額の家賃補助を受けることができた。

 その反面、コロナ禍後の利用件数は著しく低い。「この制度がきちんと機能すれば、低所得層であっても生活保護が必要な状況にまで追い込まれる前に生活を再建できる人も多いはずだ」(前出・桜井氏)。

 「セーフティーネット」の改革も必要だ。生活保護の「一つ手前」のセーフティーネットとして15年に施行された「生活困窮者自立支援制度」をいかに機能させられるかも重要なファクターである。

 生活困窮者自立支援制度とは、例えば、収入減や債務などで家賃が払えなくなった人や、アパートの建て替えに伴い退居を強いられている単身高齢者など、生活保護に至る前の段階にいる人を対象に、生活全般にわたる「困りごとの相談窓口」として位置付けられている制度だ。生活困窮者支援の先進的な取り組みで注目を集める神奈川県座間市福祉部参事兼地域福祉課長の林星一氏はこう語る。

 「相談者の中には、雇用保険や障害年金など、生活保護に至る前のセーフティーネットの仕組みを十分に理解・活用できずに困窮状態に陥ってしまった人も少なくない。利用者が『窮地に追い込まれて初めて相談する』という状況は改善するべきであり、早期的・包括的な支援を掲げる生活困窮者自立支援制度を機能させることは法律上、自治体の責務だ」


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