米国のトランプ大統領は、2016年の大統領選のキャンペーン時に「石炭への戦争を終わらせる」と主張した。米国の石炭生産量の約9割は、10年頃まで米国の電力供給の半分を担う石炭火力発電に使用されていたが、2000年代後半からのシェール革命による天然ガス生産増に加えオバマ政権が始めた温暖化対策が重なり、石炭火力の発電量と石炭消費量は減少していた。この生産減を終わらせるとの宣言だった。
トランプの主張は、民主党の支持基盤である労働組合も動かし、全米鉱山労組はそれまでの大統領選での民主党候補支持を取り下げた。
17年の大統領就任後、トランプは炭鉱に係わる環境規制の緩和、連邦政府所有地の鉱区開放などを矢継ぎ早に打ち出したが、安価になった天然ガスとの競争に石炭は勝つことができず、石炭生産量と消費量は減少を続けた。
25年から始まった2期目のトランプ政権は、脱温暖化対策、石炭の復権を1期目よりも強力に推進している。状況が1期目とは大きく異なるためだ。
ひとつは、バイデン政権が電気自動車(EV)、再生可能エネルギー(再エネ)導入など温暖化対策に巨額の予算を投入していたことだ。温暖化は詐欺との立場のトランプは、温暖化対策を相次いで覆し再エネ、EVに厳しい対応を取り、化石燃料増産を掲げている。
もうひとつのもっと大きな要因は、米国のエネルギーと電力供給を取り巻く状況の変化だ。10年以上成長がみられなかった米国の電力消費量は、生成AIを支えるデータセンターの電力消費増により増加に転じた。将来の電力不足も懸念される状況になり、使える発電設備は何でも使う時代になってきた。
トランプ政権は、老朽化により閉鎖が続いていた石炭火力発電所の閉鎖中止を指示した。電力会社の中からは老朽化した設備の利用延長はコスト増につながると反発する声もあったが、需要増の中では設備の利用延長はそれほど大きな問題ではなかった。
今冬の寒波では石炭火力が電力消費を支えた地域もあった。減少していた石炭火力の発電量は下げ止まり増加に転じている。
2月12日に、トランプは、オバマ政権が09年に導入した「温室効果ガスの危険性認定」を取り消す大統領令を発令したが、その前日2月11日に戦争省(国防総省)に対し石炭火力からの電力調達を指示する大統領令を出した。
日本では、電力の調達に関し180度異なる方針を示した防衛相がいた。河野太郎元防衛相は、在任中の19年に自衛隊基地の電力調達の再エネへの切り替えを指示した。石炭火力と再エネでは、温暖化対策だけでなく、安全保障でも大きな相違点がある。防衛施設に適した電力はどちらだろうか。

