日米関税交渉で合意された80兆円の日本の対米投資の第一弾の中に天然ガス火力新設があげられた。データセンター用発電設備の不足が予想される中では、日本側のメリットは別として、投資は必要だ。もっとも、米最高裁が相互関税は違憲としたので、投資の先行きは不透明になった。
米国での天然ガス生産量とLNG輸出量の推移は図-4の通りだ。LNG輸出量は伸び続けているが、それ以上に天然ガス生産量は増加している。国内向け天然ガス供給に心配はなさそうだが、将来輸出用天然ガスとの競合による価格の上昇はあるかもしれない。
天然ガス火力建設のネックは発電設備に必要なガスタービンが世界的に払底していることだが、日米政府間で合意がある以上タービン調達の目途はあるのだろう。
安定的な供給ができない再エネ電源を防衛用に利用するには蓄電池との組み合わせが必須だが、それでも克服できない問題がある。サイバーセキュリティだ。
再エネ設備が抱えるセキュリティー問題
昨年、米国の太陽光発電設備から不審な通信機が発見され、ニュースになった。太陽光、風力発電設備は事業者、電力会社、管理事業者などとの通信機能を持つ。
中国の製造業者が発電設備に通信可能な機器を忍び込ませ、発電を遮断する可能性は以前から指摘されていた。
英国が16年に中国広核集団とフランス電力(EDF)の共同事業体にヒンクリーポイントC原子力発電所の建設を発注した際にも、中国が遠隔操作機器を密かに設置し発電を止める可能性があると議論になったが、中国が数千億円の投資を溝にすてることはしないはずとの英国政府の判断の下発注された。
22年のロシアのウクライナ侵攻が強権国家に依存するリスクを明らかにした結果、英国政府は今後の原発事業への中国の参加を白紙にする決断をした。
太陽光、風力発電設備には必ず複数の関係者と通信する設備が設置されるので、遠隔操作によるセキュリティーのリスクは高まる。
欧州委員会は、風力発電設備導入時にサイバーセキュリティの問題を考えるように指示している。要は中国製設備を慎重に検討せよとの指示だ。中国製設備の導入を予定していたドイツの洋上風力事業者は、ドイツ製設備に切り替えた。
昨年12月29日、30日には、ポーランドの送電網、熱電供給システム、太陽光、風力発電設備がサイバー攻撃を受けた。ポーランドのドナルド・トゥスク首相は、個別の再エネ設備が攻撃を受けたことはあるが、複数の再エネ設備への大規模な攻撃は初めてと説明した。
ポーランド政府は、ロシア連邦保安庁傘下のハッカー集団「ベルセルク・ベア」による攻撃と述べている。攻撃は撃退され実害はなかったが、ポーランドの電力供給の29%を占める再エネ電源の脆弱性が明らかになったと報道された。
能天気な日本の政治家
19年12月に当時の河野太郎防衛相は、「防衛省・自衛隊における電力の調達に係る防衛大臣の指示」を出した。
その要旨は次だ。「20年度から電力調達において再エネ比率を大幅に引き上げるとともに、地元で発電する会社などから優先的に購入する。その見直し結果を20年5月末までに報告せよ」。
すべての自衛隊施設で再エネ比率を引き上げ、最終的には再エネ100%を目指す内容とされたが、防衛相が安定供給より温暖化問題を優先させるのは正しい姿勢だろうか。再エネ設備は悪天候時には発電できないし、多くは中国製だ。
米国が目指すように、安定供給が第一ではないか。当時すでに英国では、電力供給を一部とは言え中国に依存するリスクが議論されていた。

